底本：末弘嚴太郎『断腸前後』（一粒社，1952年1月）
第一部
遺 稿
私の信条
労働と体育
私の法社会学
座談会について
断腸の記
断腸後記
私の信条
１
「ともかく書いて見ましょう」と気軽に引き受けては見たものの，イザ筆を執って見ると，一体信条とは何だという疑問がしきりに脳中に浮び出て来て筆の動きを妨げる。
色々考えて見た結果，まず第一には――やはり流石に法律家らしく――もしも憲法第１４条にいうところの「信条」に相当するものならば，それが宗教的であるにせよ政治的であるにもせよ，私にはまずそういうものはない，という結論に達した。特にそれをもっているためには法律上差別的取扱を受けるほどの信条は，どう考えても自分にはあるとは思えないからである
次に，世間には時々自己の行動を律するために特に自分で戒律のようなものを作って，それを信条と名付けている人がいるらしいが，そういう意味の信条も私は今までついにもったことがない。最近ある老弁護士が雑誌に自叙伝風の物語を書いているのを見ると，「生涯を貫いた根本信条」だといって「道楽をしないこと」及び「嘘をつかないこと」を特に挙げているが，私にはこういうことを特に意識的に戒律に仕立て上げた覚えは全くない。嘘をついてはならないという信念は子供のときから強く脳裡にしみ込んでいる。道楽もものによってはしない方がいい位のことはいつも考えている。しかし，これ等を特に戒律的のものに仕立て上げたり，これこそ自分の根本信条だなどと言って見る必要を感じたことは未だかつてない。
ついでだが，座右銘のようなものを選んだり作った記憶も私には全くない。古人の書いた文章を読んだり，先輩先生のいうことを聴いて感激したり感心したことはしばしばあるが，それを態々書きとって座右銘にするようなことをした覚えは全くない。ただし，そういう風にして一度感心した文句や言葉は，不思議なもので平素は全く忘れているようでも，何かの折りにはひとりでに頭の中によみがえって来て，勇気をつけてくれたり，戒めの役をしてくれる。そういう経験は今までにもしばしばあるが，さらばといってそういう文句や言葉を態々作為的に記憶して自分の行動律にするようなことをしたこともなければ，考えたこともない。
それではお前はいつも行き当たりばったりに無軌道で行動をしてるのか，ときかれると，必ずしもそうではない。平素から意識的に戒律のようなものをもっていて外から自分の行動を律するというようなことはしないしまたしたがらないだけのことで，自分の心の中にはやはり何かしら自分の行動を律する規準のようなものがある。じかもそれは中々頑固な規準で事実それに外れたような行動をすることは非常に六かしい。それがどうして出来たかは自分にもよく解らないが，恐らく一部分は生まれつきの性質で，あとは子供のときからの教育教養を通じて自ら育成されたものだと思う。だから，自分ではこれを性分だとか気象だとか癖だとか位にしか考えていない。特に信条というほど固苦しいまたよそよそしいものではない。だから改まって「私の信条」は何だときかれると返答にこまる。確に「条」はあるのだが，それに「信」という肩書をつけると，どうも自分の気分にはピッタリしないのである。
２
だから余り「信条」という文字にこだわらずに，以下に多少そんな話を書いて見よう。
まず第一は何といっても孤独性，これは善悪は別として最も根の深い自分の性分のようである。子供の時から今日まで自分のしたことを振り返って見ると，この性分の致すところだと思うことが非常に多い。自分では，この性質を余り善い性質だとは思っていない。これがなければもっと他人のために善いことをして上げることができたであろうと思うことは決して少なくない。またこの性質のために損をしたと思うことも沢山ある。幸に大学を出てから学者という職業を選んだから，余りボロを出さずに済んでいるが，も少し人との関係のうるさい職業であったら恐らくこの性質のために可成り失敗をしたのではないかとさえ思っている。
この性質がどうして出来たかは自分にも解らない。多少子供の時からの性質が未だに治らないのだと思う。考えて見ると，子供の時から自分一人で本を読んだり細工作をすることが好きで，近所の子供と遊戯や勝負事をして遊んだ覚えは余りない。遠足や旅行も一人歩きが好きで，他人と一所に歩くと便利なこともあるが，その代わり窮屈で思うように見物も出来ない。中労委に来てから，出張などをすると必ず随行がついて来る。地方にゆくと土地の人が案内をしてくれる。便利でもありまた難有いとも思うが，一番困るのは寝る時以外に自分一人の時間がないことである。
特に交際を嫌うという程偏屈でもないのだが，余程のことがなければ他人を訪問しない。敢て来たるものを拒むというほどのことはないが，約束のない人が突然来ると，正直のところ困ったなと思う。そのくせ，予め時間の約束をすることが嫌いだと来ているのだから，われながら我儘千万だと思うこともあるが，自分としては日本人にはどうも他人の時間を食うのを平気な人が多過ぎるのではないかと思っている。時間の約束をするのを嫌うのはわれながらよろしくない癖だと思うが，これは一には時間を約束したとなると，それが朝から気になってなんとなく落ち着かないという位神経質な面がある結果で，必ずしも我儘だけの結果ではない。だから約束は中々しない代わりに，約束をした以上守ることは甚だ忠実で，人を訪問する場合など少し早目に近所までいって時間の来るのを待つようなことがよくある。
しかし，大体において社交性に乏しいのは事実で，公の職務上密接な交渉を持つ人とも，特別の事情がある場合の外は，私的には交際しない。大学の同僚とも，学問以外のことでは，ほとんど交際しなかったのみならず，職務上の公的関係以外で同僚中のある人と特に親しい関係を持つことから起こり易い弊害を恐れる気持ちさえあった。だから，同僚との関係も至極淡白で言はば合理的もしくは非常的であった。これは日本人普通の習慣から言うと，むしろ異例的であったのかも知れないけれども，その代わり人事について非常に公平でありえたのはこのためだと思う。私は他人が職務関係以外のことで色々交際しているのを決して非難しない。しかし，その関係から公の人事についてまで私情が混入し勝ちな傾向があるのはわれわれの社会の非常な欠陥ではないかと考えている〔中絶〕
孤独性の悪いところだけを大分列べたが，長所としては独立精神が強いことと無闇に他人のことに干渉しない性質を特に挙げてもいように思う。〔中絶〕
学者としての自分の性分を――これは多少自己弁護めくが――すこし書いて見たい。
戦争中ある時文部省教学局の企てで催された小さな座談会で，「自分は頭で学問するよりはむしろ体で学問する」というようなことを言ったことがある。すると同席の安倍能成さんが非常に不思議そうな顔をしてその訳をきかれたが，その時の話のやりとりは教学局の雑誌にのっている。その際結局安倍さんは私の言うことをよく理解してくれなかったように記憶しているが，これは他の人にも解りにくいのが当たり前だと思うから，少し説明してみる。
まず第一に私は学者仲間には珍しいほど記憶力が無い。悪いというよりはあるいはむしろ異常だと言った方がいいのかも知れない。つまり読んだこと，聴いたことをそのまま覚えていて随時必要に応じていつでも思い出す能力が非常に足りない。この点私が特に親しく知っている美濃部鳩山両先生などに比べると天地雲泥の差で，この両先生が他の学者の所説をよく理解して居たのは勿論，法令の細かい条文や判例の日附などまで一々記憶しているのを私は神業のように思ったものである。だから私は留学中からその後長い間カードを使って記憶力の不足を補っていたことがあるが，ともかく普通の意味での記憶力は〔中絶〕
労働と体育
いまどき「労働と体育」というような課題を出しても，まだそんなことを問題にする時期ではないという人があるかも知れません。つまり多くの人は体育の本質，従って価値を理解しないで，労働も体力を消耗するもの，体育も体力を消耗するもの，というように簡短に独断しているから，最低生活をさえ保障しえないような賃金がカツカツ払われているに過ぎない現状では，労働省の体育問題のごとき，まだまだこれを本格的に取り上げる段階に到達しない，というように考えているらしく想像されるのです。
ところが，私に言わせると，そうした考え方は戦争中もかなり広く行われていた
体育無用論
と共通した，体育に対する無理解に根ざしているのであって，「労働と体育」の問題を考えるためには，何を措いてもまずこの種の議論に対して批判を加えて見る必要があるように思われます。
戦争中は，何といっても，戦力の基礎としての労働力を保持増強することが絶対に必要だと考えられていました。ところが，当時指導的立場に立っていた軍人及びこれに迎合した官僚達は，結核対策その他消極的な保健政策によって労働力の保全を図る必要のあることには気付いていても，およそ体育の本質及び価値を理解しなかったため，正しい体育を通じて国民一般の体力を保持し増進し得るといようなことには全く思い至らなかったように考えられます。彼等は一般に体育とスポーツとを混同したのみならず，スポーツを単なる慰みごとと考え，娯楽一般を単なる暇つぶしであり，体力を消耗させるに過ぎないものと考えていたから，訳もなく体育無用論を唱えてはばかるところがなかったのです。
しかも，当時といえども，適当な体操が疲労を回復させる効能があることに気付いていた人もいたのであります。また就業前のウォーミングアップとして体操が役に立つというぐらいのことには気付いていた人もいたのであります。そのため，産報でも産報体操を作って，これをあらゆる職場に普及させようとして色々努力したし政府も放送局を督励したり町会を動員してラジオ体操の普及に努めたのであります。経営者の中にも，例えば国鉄が海軍体操と同じ系統の国鉄体操を奨励したように，特殊の体操によって従業員の体力保持につとめたものもあったのであります。
ところが，当時各方面で行われていた体操を視察した私は，それが一般にほとんど体操の本質を理解しない過った指導の下に行われていたことを発見して驚いたのであります。もともと
体操
は，ナポレオン戦争後のプロイセンにおいて，国民の体力を科学的方法によって増進することを目的として考え出されたものだと言われています。そしてこのプロイセンで考え出された体操の価値が段々と北欧諸国一般に認められて，やがてはスエーデン体操ともなりデンマーク体操ともなって，今日一般に体操といわれるものにまで発達したのだと言われています。私はもともと体操の専門家ではありませんから，ここに体操そのものの講釈をしようとは思いませんが，それが初めから医学と連絡をもって発達したものであって，今日の発達した段階においても体操を構成しているすべての運動は医学的意味をもつのであって，無意味な運動は一つもないということを，まず第一に皆さんに知って頂きたいのであります。
無論，実際の体操は，指導者それぞれの考えによって色々組み立てられています。ちょうど漢詩に起句承句転句結句というような文句の組合せ方式があるように，それぞれの指導者は自分の考えで採り入れる運動の種類と組合せを考えます。そして，そのときには各運動の生理的価値を考えるのは勿論，実演者に与える生理的作用その他心理的影響も考えて，運動の種類，総量及び順序を定め，その上各運動のつぎ目つぎ目に色々工夫をこらして運動全体が滑らかに運ぶよう，特別の考慮を施します。
ですから，体操の理想をいうと，実演者各自その時々の体力状態に応じて運動の種類分量が決定されることが望ましいので，聞くところによると，欧米の金持ちの中には家庭教師として体育指導者を常備にし，その日その日の健康状態に応じて，適当な体操をさせてもらうものさえあるとのことであります。ところが，こんな理想的なことは一般に望み得ないこと勿論でありますから，結局指導者各自が自分の考えで運動の種類と総量と順序をきめて色々の組み合せの体操を作り上げて，これを大体誰にでもやらせようというようなことが考えるので，これが皆さんも御承知のラジオ体操第一であったり，第二であったり，大日本体操何々であったりしているのです。ところが，世間の人には一般にそういう固定した組み合せによる体操のみを体操だと考えて，組み合されている運動の種類と順序を知っていることが体操ができることだと考えるようなトンデもない誤解に陥っています。例えば，戦時中よく「体操もいいけれども，順序を覚えることが大変で」というようなことをいう人がありましたが，もっとひどいのになるとラジオ体操を覚えたというからやらせて見ると，単に運動の種類と組み合せの順序を知っているだけで，一つ一つの運動の意味を全く理解せず，体育的にいうと全く無意味なことをしているものが少なくなかったことであります。
遠慮ない批評が許されるとすれば，ラジオ体操その他の組み合せ体操は言わば売薬のようなもので，戦時中しばしば私は
売薬体操
の名の下にこの種の体操に批評を加えたことがあります。が，いやしくも体操を語る以上今までも同じことをくり返しくり返し主張する必要があるように考えます。つまり，先ほどもお話したように，理想的な体操は実演者各自の体力状態に応じて考えられねばならないもので，採り入れられる運動の種類も順序組み合せも各人の状況に応じてその日その日考えられるべきであること，あたかも医者が患者のその日その日の病状に応じて薬の調合を加減するのと同じでなければなりません。ところが，各人がそういう適時適宣な体操をやらせてもらうような体育指導者をもち得ないのは勿論，各人自らに体操理論を教えて自ら運動の選択組合せをさせるような指導をすることも事実中々行われ得ないため，結局考え出されたのが今の売薬体操でありまして，このことを一般に人に解って貰うことが真の体操を国民一般の間に普及徹底させる根本四義だと私は考えています。
無論，私といえども売薬体操の価値を全面的に否定するものではありません。大衆を相手にする限りああしたものも必要だということはよく解っています。しかし，売薬体操には初めからそれ自身として効能に限界があるので，そのことを理解することはおよそ体操を理解する第一歩として是非とも必要だと私は考えています。そのことを解って頂くために戦時中方々でやっているラジオ体操を視察して感じたことをここに述べさせてもらいます。
というのは，戦時中街のラジオ体操を視察して，一般に感じたことは，中年以上の人に熱心家が多いのにくらべて，青壮年が真面目に参加しているものが非常に少ないことでありました。この原因如何は色々考えられますが，その最も大きい原因として考えなければならないのは，体操内容が固定していることだと思います。すべて組合せ体操はその考案者が一定の標準的体力者を規準として考えたものですから，仮りにラジオ体操の考案者が予定したような体力をもつ若者が熱心に毎朝ラジオ体操をやったとします。そうすると，その若者の体力はやがて必ず考案者が予定した程に向上します。その結果，若者は必ずやその体力を一層向上させるために更に高度の体操を要求するにきまっています。ところが初めから内容の固定したラジオ体操は，そうした若者の向上的欲求を満足させ得ないようにできているから，彼等が毎朝の実践を無意味に考えて段々に脱落するのは当然です。これに反し，老人達の体は初めから老化していますから，仮りに彼等が毎朝毎朝真面目に同じラジオ体操をやったとしても，それはその日その日単に按摩的の効能を与えるに過ぎずして，体力を向上させる効能は現われない。言葉を変えていうと，毎朝の体操は老化した体を一応柔化させる按摩的効能はあっても，翌朝はまた元通りの体になる。だから毎朝同じ体操をやっても，それだけの効果を毎日感じる，そこに彼等老人が若者にくらべてああした体操に熱心であった原因だと私は考えています。
なお世間一般の誤解を解くために，
集団体操
も体操として決して本格的なものではないことをお話して置く必要があるように思われます。世間には体操はすべて多人数で揃ってやるもののように考えている人が少なくありません。そして，そういう人は，競技会などでやる集団体操を見て，今の体操は揃ったとか美しかったとかいって，あたかも体操は人に見せるのが本質であるかのように考え勝ちですけれども，集団的にやることそれ自体は決して体操の本質ではありません。無論一人の指導者で多数の人を教えなければならない場合には，便宜上多数の人を揃えて練習させます。また練習をする本人としても，一人でやるよりは多数で揃ってやる方が張り合いもあり興味もあるというようなことから，多数の人が集まって練習をするというような習慣もできていえるのだと思います。また見せるために集国体操をやることもそれ自体決して体操として邪道だとは思いません。そうした場合には，指導者としても運動の組合等にも特別の注意を払って，見て美しいという効果をねらうこと勿論であります。そしてそうした場合の集団体操を行う場合にはすべて揃うことが何よりも大切ですけれども，この場合でもすべての実演者が練習の結果各運動を完全に行う結果として自然に揃うようになることが望ましいのであって，初めから揃える目的で揃えた体操は体操として全く価値のないこと勿論であります。
これを要するに，体操は初めから保健目的で考え出された体育運動でありまして，これによって若い者には若い者に必要な運動をやらせてその体力を作り，老人には老人に適した運動をやらせてその体力を整えることを目的とするものであります。したがってまた，一定の労働に従事するものには，その従事する労働の性質に応じてそれに適応した体操があるべきであって，
労働と体操
との関係はこの見地から考える必要がある訳です。
体操がどういう意味で労働に役立つかを考えて見ると，それは次の二つに大別されます。
第一は，労働力を達成する作用であって，労働に必要な体力を作ることもできれば，一定の労働動作に必要な技巧的能力を練成することもできます。なお毎朝就業前に体操をやってウォーミングアップ的効能をあげることも労働力たっせい作用の一だと考えることができます。
第二は，回復乃至矯正的作用でありまして，労働の結果体に残った疲労を回復させて明日に備えるのがその一，労働の結果生ずる肉体的偏癖を矯正して労働力の保存を図る作用がその二であります。
体操の本質を理解しない人々は，体操も労働と同じようにエネルギーを消費するに過ぎないと考えるから，労働のあとに体操をするというようなことは思いも及ばないのです。ところが，実際労働のあとにこの労働の性質に適応した体操をやらせると，労働の結果生じた疲労を回復する効果があることは実験上明らかにされているのでありまして，その生理的理由は素人の私がここに説明することを避けますが，按摩やマッサージで疲労回復が促進されることを知っている読者諸君は，適当な体操によって同じ効果をあげ得る理由を容易に理解し得ると考えます。例えば，私は毎日曜日に朝から夕方まで畑の仕事をしますが，夕方仕事を終えた後または寝るまでの間に極簡単な体操をします。そしてその日の片よった労働によって過度に使用された筋肉に手当てをします。そうすると，翌朝起きたとき，疲労が残っていないのは勿論，肩や腰に痛みを感ずるようなことは絶対にありません。世間の人は，按摩のように他人にやってもらうのなら楽であるが，労働のあと更に自分で体操をやるのは苦しいばかりでなく，かえって疲労を増すばかりであろうと考え勝ちでありますが，そういう考えはおよそ体操というものを理解しないから起こるのでありまして，そういう方々には是非とも労働のあとにやる体操としては，労働の種類分量によって適当のものがあることを解って頂きたいと思います。
毎日会社に出てデスクの仕事をした上，往復の交通難で心身共に疲労し切ったサラリーマン諸君のごときは，この上朝晩体操をやるなど思いも及ばないことと一笑に付されるに違いないと思いますが，これもやはり体操の本質を理解しないために起こる考え方であります。毎朝の体操によって体全体を調整しておけば，往復の交通難にも十分堪え，会社の仕事も楽にできます。また毎晩寝る前短時間でよいから適当な体操で体に手当をすることを怠りさえしなければ，その日の疲労が翌日に残るようなことは起こりません。若い方々は，体操によって労働力を達成するというと，何か特に激しいことをして新たに筋力を強化するようなことを頭に画き勝ちですけれども，そういう人々は多く平素朝晩に規則正しく体に手入れをするようなことを忘れて，日曜日だけ野球その他激しいスポーツをやったりハイキングなどをやっていますけれども，こうした遺り方はこれを体育的に考えると甚だ不合理だと言わなければなりません。若い者にとっては，日曜日のスポーツ，ハイキング等が或る程度体力保持のために役立つことも否定できません。しかし，これと労働との関係で考えると，むしろそれ等の運動がレクリエーションとして役立つという面を大きく見るべきで，日曜日の体育運動のごときそのやり方を誤ればかえって翌日の労働能率をおとすことになり易いのです。現に日曜日に運動をやり過ぎて翌日は体がいたいとか眠いとか，いうようなことを言っているのを聴くことは決して稀でないのですが，私は決してだから日曜日には運動などせずにジッとしていろというようなことはいいません。それとは反対に，日曜日に運動をするのは結構です，しかしそれにはあとの六日間毎日適当な体操によって体全体を調整しておいて，日曜日に少しぐらい激しいことをやっても疲労が翌日にのこらないような体力を作っておきなさいといいたいのです。そして，そのために毎日やる体操も極めて簡単なものでいいのだということを特に知って頂きたいのです。
話は少し変わりますが，私は最近都下八王子の機織女子の労働事情に関する調査報告を読みましたが，その中に毎日毎日低賃金，長時間労働，粗食等の悪条件の下に働いた女工達が月二回の里帰りによってかえって腹をこわすという話が書かれています。つまり毎日与えられる休職のカロリーが足りない上に，長時間労働で体力を消耗した女工が，里帰りの際親の出してくれる御馳走を鱈腹食いたがるのは当然のことで，これもある意味においてはカロリーの補足に役立つことは勿論でありますが，科学的に考えてみれば極めて不合理なやり方で，過食の結果翌日腹をこわせばかえってマイナスになることさえ考え得るのです。ですから，そうした里帰りの際の御馳走はレクリエーションとしては大いに役立つが，保険的には余り役に立たないのみならず，時にはかえって有毒だということもいえる訳だと思います。そして，このことはサラリーマンが平素全く体育をせずに，日曜日だけ急に激しい運動をやることが，体育的，もしくは保険的に見ていかに不合理であるかを理解するのに大いに役立つと私は考えます。殊に女工さんの場合には，そうした不合理も自力ではどうにもならない気の毒な立場に置かれているのに反し，サラリーマン諸君の場合には日常自らの多少の心がけによって簡短に解決のつくことなのですから，是非とも大いに考え直して欲しいと思うのです。
さて次に，労働の結果生ずる肉体的偏癖を体操によって矯正して労働力の保存を図る必要があるという
体操の強制作用
のことを少し精しくお話しましょう。話を解りよくするために，少し実例をあげて説明します。
まず第一に，すべての労働は，その労働の特質に応じて，身体の片よった使用を強要します。そして，長時間にわたり毎日同じ種の労働に従事すると，その片よった身体の使用の結果として，必然身体にある偏癖を生じます。このことは今更私がいうまでもなく，すべての労働者は自ら体験的に知っていることです。ところが，多くの人々はこの事実を知っていながら，この偏癖が保険的に見て極めて悪い結果を惹き起こすものであること，殊に齢をとるにつれてこの若いときからの偏癖が痼疾化して腰痛や肩痛の原因になったり，その他色々の身体障害を生ずるということに気付いていません。その上そうした偏癖もその日その日の適当な体操によって矯正し得るものだということをも知っていません。そして，問題の重点は実にこれ等の点に関する無知無理解にあるのだと私は考えます。
例えば，わが国の農民が一般に早老であって，５０才を越すと腰痛，肩痛その他の身体障害を起こして労働力の著しい減退を来たすものが多いことは広く人々の知るところであります。そしてその原因としては，一般に食生活の伝統的不合理，寄生虫その他風土病，住居の不完全等々色々のこと考えられていますが，私の考えるところでは，農業労働が一般に過重であるのみならず，身体に偏癖を生じ易い方式で行われているにもかかわらず，農民一般が疲労回復のために，もしくは偏癖矯正のために何等特別の手当を体に施さないことが，最も大きい原因ではないかと思われます。わが国農民の畑仕事，田植，草とり等の作業が長時間にわたってかなり無理な姿勢動作を強いていることは，誰しも容易に気付くことであります。又道路の不完全や牛馬車輌等運搬具の不備に原因して農民一般が少年時から重い荷を背負うように習慣付けられていることも周知の事実であります。その結果，農山村の青少年が都会人にくらべて一般にたくましい体をしており，腕力も強く，負担力も強いことは誰しも知っているところでありますが，私に言わせると，若い時にこうした体をもっていることこそかえって彼等が齢をとるにつれて身体障害になやまされる原因になっているのだと思います。要するに，農民は子供のときから，無理な労働をするにもかかわらず，その日その日それから起こる身体的偏癖を矯正することを怠るから，それがやがて痼疾化するのだと私は考えています。
戦争中ある日私は体育指導者の斎藤由理男氏と共に，茨城県の内原訓練所を視察したことがあります。その時訓練所には開拓移民としてやがて渡満すべき１７才の少年が数千人いましたが，私は斎藤氏に頼んでこれ等の少年に体操をさせてもらったのであります。そしてやらせて驚いたことは，これ等の少年達が見かけはたくましい体をしているにも拘らず，肩や腰が既に固まっていて，関節の可動性が著しく失われていることです。斎藤氏にその原因をたずねて見ると，これ等の少年は子供の時から重いものを背負わされたり野良仕事をやらされたり無理な仕事を続けているため筋肉の発達が不自然になっているので，これをこのままにしておくとやがて，齢をとるにつれて腰痛をなやんだりするようなことになるのだとのことであります。それではこれ等の人々が齢をとってもそういうことにならないようにするにはどうしたらよいかというと，それには要するに毎日労働の後で体に手当てを加えて，無理に使ったため過労に陥っている筋肉を正常の状態に戻すことをすればいいので，その方法としてもっても簡短で有効なのは体操であります。既に世界第一の農業国といわれるデンマークの農民が毎日楽しく体操を行うによって優れた労働力の保持に成功していることを考えて見れば，誰しも容易にこの間の理合を理解し得ると考えます。
なお，毎日の片よった労働生活が肉体に好ましくない偏癖を生ぜしめることは，決して農民運動の場合のように労働が激しい場合にのみ限るのではありません。外観的には一般に軽い労働と思われている銀行会社のデスク労働のようなものでも，毎日適当な強制を加えることなしに，これを続けていれば，いわゆるサラリーマン型の猫背でアゴを突き出しているような体型を作り出すのでありまして，特殊の労働による肉体的偏癖，惹いてはこれに基因する身体の故障は軽労働の場合にもなお生じ得るのであります。
さてスポーツの話が大分長くなりましたが，次に近頃しきりに宣伝されている
レクリエーションの問題
をとり上げて，これと労働との問題について，日頃考えているところを少しお話して見ましょう。
この問題は終戦この方特に民間情報教育部の指導勧奨によって各方面でとり上げられるようになりましたが，実を言うと民衆娯楽の問題としてわが国でも既に古くから一部の人々によって問題にされていた事柄であります。又外国のレクリエーション運動とわが国が初めて接触したのも，ロサンジェルスのオリムピック大会に際して行われた世界レクリエーション大会の時でありまして，決して近頃に始まった事柄ではないのであります。もっとも，当時はオリムピックに派遣された文部省の役人が片手間で会議に出席した程度で，このわが国への影響はほとんどなかったといえましょう。ところが，次の伯林オリムピック大会に際しては，ドイツ政府があの国のレクリエーション運動であるKDFの仕事を国内国外に宣伝するために，ハンブルグで特に盛大に第二回の世界大会を開きました関係上，わが国でもこの問題に注意を向ける人が非常に増えました。殊に次の東京オリムピック大会の際には是非日本でレクリエーション大会を開かなければならないということになった関係から，国内にも急に日本厚生協会という団体が作られて，着々国内態勢を整える等世界大会えの準備がなされたのです。敗戦後の紺今日から考えると，全く夢のようですが，もしあの当時厚生協会の人々が考えていたようなことが予定道り実行に移されたとすれば，恐らくは今頃司令部の指導によって今更らしくレクリエーション運動を始める必要は全くなかったのでありましょう。そのことを考えると，誠に残念でたまりません。
では，一体レクリエーション運動とは何か。又如何なる理由でこの運動が各国で実際上問題になっているのであろうか。
一言にしていうと，資本主義文化の必然的結果として各国共に娯楽の偏在，したがって欠乏という病的理象をひき起こしたこと，〔以下中絶〕
私の法社会学
法社会学がなんであるかについて人々の意見が必ずしも一致してない。そしてこのことがわが国におけるこの学問の進歩を非常に妨げているように思うから，以下にこの点についての私の考を簡短に摘記する。
一 私の目指している法社会学は，法に関する社会法則の発見を目的とする科学である。そしてその社会法則を応用して立法や裁判の上に正しい法を実現することに貢献しようというのが，この学問を通して私が達成したいと考えている実践的の目的である。
二 私は凡そ法学の窮極的目的は正しい法を立法や裁判の上に実現するにあると考えている。そして，工学者が物理学や化学によって発見された自然法則を応用してその意図する技術的目的を合理的に実現しようと考えていると同じように，立法者や裁判官は法に関する社会法則を応用してその立法や裁判を合理化すべきだと考えている。工学者に技術的目的を指示するのが物理学や化学ではない。しかし物理学や化学の教える自然法則の知識は技術に向かって不可抗力の制約を与える。自然法則に従えば技術的目的が容易に達成されるに反して，これに逆らえばその達成は不可能である。それと同じように，如何に強い政治の力を以ってしても逆らうことができない法の社会法則があり得べきだという信念の下に，かかる社会法則を発見しようというのが私の法社会学である。だから，法社会学そのものは政治者に向かって政治的目的を指示するのもではなく，したがってまた政治的目的が正しいかどうかを判断する基準を与えるものでもなくして，法社会学の教える法則に逆らっては如何なる政治的目的も達成し得ないものであることを厳粛に教えるのが法社会学の任務である。
〔法社会学の目的〕
××兄
貴兄を初め同学の方々のお骨折によって雑誌「法社会学」がいよいよ発刊されることになりました由，学会のためこの上ない喜ばしいことに存じます。特に皆様のお骨折に対して心からなる敬意を表したいと存じます。私にもこの際何か書くようにとの難有いお言葉でありますが，生憎と御承知の通り昨秋来の大患で，既に回復期にあるとはいうものの，まだ本格的な書斎生活のもどるには多少無理が感ぜられますから，この際の執筆はおゆるし願いたいと存じます。皆様へも何卒よろしくお伝え願います。
私は終戦この方労働委員会の劇務に専念したため，心ならずも長いこと学界と離れ，法社会学の皆様とも直接一緒になって仕事をする機会をほとんどもちませんでした。それでも１９４７年の秋に若い同好の方々の希望によって法社会学序説と題する４回の連続講演を行った機会に，多少はこの問題に関する若い方々のお考をも聞くことができたのを心から喜んでいます。またその後も次々にと発表される皆様の仕事には絶えず多大の興味をもって注意を払って参りました。そうして，皆様の協力によってこの分野の研究が段々と深まりまた拡がってゆくことを陰ながら喜んでいるのでありますが，その間に多少気になってならないことは，法社会学の目的，したがって任務というような中心的の問題について必ずしも人々の意見が一致せず，そのために大事な力が末梢的な論争のために無駄に費やされている気味があることです。
法社会学の目的は，今更いうまでもなく，法学の科学化にあります。自然科学はもとより他の社会諸科学に比べて，法学が科学として立ち後れている，この立ち後れを取り戻して真の科学の名にふさわしい学問に法学を仕上げてゆこうというのが，凡そ法社会学に志すもののすべてに通ずる念願です。ですから，今日この学に志すものにとって最も大事なことは法学の歴史を研究して，法学が科学かして立ち後れた原因を研究すると同時に，この後れを取り戻す具体的の方策を考えることだと私は考えています。その意味で，私は同士の方々がもっと法学の歴史に注意を払って頂きたい，そのためには例えば季刊法律学に恒藤教授が書かれたほう社会学の文献史のようなものにもっと注意を払わなければならないのは勿論でありますが，更に一歩を進めて法学全体のルネッサンス以後における発展の歴史を研究することが是非とも必要だと考えます。モンテスキューは確かに法社会学の始祖といってもいい程の仕事をしています。しかし，私の見るところでは，この時代に法の科学化を本格的に企て，後代に伝わる大きな流れを作ったものはむしろ自然法学者であって，彼等こそ法学を進学から引き離して人間の理性の仕事にすることを企てた最初に人々であったと思います。
ところが彼等がその新しい法秩序の基礎として措定した個人単位の人間社会が素朴な仮説であったにも拘らず，彼等の後継者が客観的事實に基づくデータによって，その仮説に修正を加えることを怠っている間に，やがて「国家」が「神」に代わって法の権威に基礎付けをする役目を引き受けるようになったため，折角一旦は「神」から引き離された法が，再び国家の権力に結び付き，凡そ法の問題が権威主義的に考えられるように逆戻りしたのであります。かくして一旦初まった法学の科学化は中断されたのであります。そうしてわが国の如きは，明治以後この逆戻りした権威主義の法思想をそのまま継受して，国家の代わりに更に天皇＝神を置き替えたのですから，ここでの法学からいつまでも権威主義に捉われて科学化しないのは当然でありますが，欧米でも代９世紀以降〔中絶〕
そうして今日われわれが法社会学と名付けている法学の動きは〔中絶〕
座談会について
１
私はどういうものか座談会がきらいで，呼ばれても大概は断ってしまう。座談会そのものは，相手次第では，面白くないこともないが，速記されるのだと思うといやになる。速記がつくと話がどうも固くなって面白くない。その上，後から速記録を廻して来て短時間に校閲しろといわれるのだから全く以ってやり切れない。殊に主催者側が予め作った計画にしたがって順次に指名してしゃべらせるようなやり方は言語道断で，まるで口頭試問を受けるような気がする。第一あれでは座談会の味が出ない。座談会の妙味は話の受け渡しの間に各人がその場その場の興味にひかれて相対で色々なことをいう点にあるので，それを除けば座談会は全体として死んでしまう。出席者が面白くないのはもちろん，記事としても面白いものができるはずがない。
２
座談会の記事を面白い読物にするためにはまず第一に企画がよくなければならない。出席者の選択よろしきを得ることも大切だが，大体どんな筋で話を進めるかについても予め十分考えて置かなければならない。良い俳優とシナリオがなければ良い映画ができないのと同じである。
第二に大切なのは司会で，司会よろしきを得なければ，企画がいかによくともいい座談会は成り立たない。出席者にいかに立派な人をそろえても，司会者が無能だと，皆に勝手にしゃべられてしまってまとまりのないものになってしまう。殊に，出席者の中に特別雄弁な人がいると，一人でしゃべりまくってしまって他の人に十分発言の機会を与えないから司会者が余ほどしっかりしていないと独演会のようなものになる。そうかといって，司会者が自分の予め立てた計画にとらわれて発言を統制し過ぎると，座談会の妙味が失われてしまう。計画も大事だが，その場その場の情勢を見て頭を働かせながら発言を然るべく指揮してゆくようでなければ一人前の司会者とはいえない。理想的にいうと，形式的の司会者を置かずに予め出席者の中の物わかりのよい人と十分打合せをして置いて自然の内に然るべく話をリードして貰うようにするといいように思う。
第三には事後に速記録を整理することが大事で，これについては菊地實が「速記録をそのまま記事にしようとするのが間違で，映画の製作者が編集をすると同じように，速記録を材料にして自由に読物を創作するくらいの積りでなければ良い座談会記事はできない」といっているのを聞いたことがあるが，さすがに立派な見識だと思う。もっとも整理だ編集だといってやたらに添削されては出席者がたまらないが，手際よくかつ良心的にやれば読物として面白いものもできるし，多少は速記録のままでなくとも，かえって座談会全体の空気がか活々と浮き出すことになる。
３
ところが，この頃見かける座談会記事の中には，こういう点で甚だお粗末なものが少なくない。第一に企画が悪い。選んだ話題と出席者の人選とがしっくりしていないとか，人物の組合せがまずいと思われる場合も少なくないが，最も悪いのは司会が拙劣なため，発言者各自に十分意をつくさせていなかったり，話のやるとりの妙味が全くでないような場合である。それから，も少し整理に注意すれば良い読物になったと思われるものが，いやに冗長なものになったり，意味のよく解らない部分が沢山あるようなお粗末なものになっている場合もまま見受けられる。
しかし，中でも最も悪いのは視界の拙劣と整理の不注意のために多くの発言は組合せから個々の発言者としては予想もしなかったと思われるような誤解が文章全体から出て来るような場合である。
手近な例をとって見ると，本誌の前号〔毎日情報昭２６・７月号〕に「近頃の流行風俗」座談会という記事がある。この座談会は全体として余り多くの事柄を短時間にしゃべらせようとし過ぎているという企画上の欠陥もあるが，次の一節の如きは人の名誉にもかかわる大問題を「流行」というワクに入れて手軽に取扱おうとした企画及び司会上の過失が露骨に出ている好適例だと思うから，関係者には少しお気の毒だが，そのまま引用して少し批評をさせて貰う。
福島 会社の旅行も流行なんですか？ この頃会社の宴会というと，熱海に来るのですが，そうして熱海は会社の宴会で，宿屋もみな，金曜日から火曜日まで満員です。何するかと思うと，汽車の中からお酒を飲んで酔っ払って着いて，お風呂に入って，芸者をあげて騒いで酔っ払って，朝帰る。それじゃ熱海へ来る必要はないと思います。
伊馬 熱海に限らず大ていの温泉や歓楽地がそうじゃないですか。面白いのは，あれは国鉄やなんかの組合大会，あれが流行のさきがけを作ったということですね。
平林 わたし攻撃的に質問したことがあるんですが，その弁解には，大きな宿屋があるとこでなければできない，沢山の人がくるからということです。
伊馬 収容力のあるところというんですね。私の聞いたところでは，東京なんかでやれば終電車に乗り遅れやせんか，途中で転んで，自動車にはね飛ばされやせんか，そういう心配があるが，どこかへ遠出して宿屋でやれば，酔っ払ったらひっくり返って寝ちゃうだけだから，温泉なら一番条件に叶ってるっていうんです。
平林 組合の金を使い込んだというのがよくありますでしょう。やはり何十万という金を扱ったことのないものが扱うからでしょうね。
この１コマの話のやり取りを労働組合の事情に通じていない世間普通の人が読むと，恐らく誰しも，温泉地で下らない宴会をやる現在の醜い流行は「国鉄やなんかの組合大会」が初めたものだと思うだろう。そうして組合大会というものは会社の宴会と同じように酒を飲んで酔っ払うものだと思うだろう。その上組合の役員というものはそういうことのために組合の金を使い込むことがよくあるものと思うに違いない。なぜならば，ここでしゃべっている方々はいずれも世間的に信用のある立派な人で，故意に嘘をいって組合を傷けるような下等のことをする人だとは思えない。その立派な人々があるいは自ら「攻撃的に質問したことがある」とか，あるいは「私の聞いたところでは･･････」というような具合に一応ハッキリした証拠を掴んでいるようなことをいっているのだから，世間普通の人は信用せざるを得ない。
しかし，わが国労働組合の実情は果たしてそのようなものであろうか。もしそうだとすれば笑いごとですまされない大問題なのだが，これらの方々は果たして心から責任をもってこの大問題を世間の前に提供する自身をもっておられるのであろうか。
国鉄その他大きい組合が温泉地でよく大会を開くことは事実である。そうして，私もこれは余り良い習慣ではないと考えている。しかし，平林さんもいっているように，温泉地にでもゆかないと実際十分な宿泊設備や大会場がないのが現在の実情で，温泉地で大会を開くことそれ自身を頭から非難するのは間違いだと思う。殊に，温泉地で開くから，酒でも飲んで馬鹿騒ぎをするだろうと考えるのも非常な間違いで，現に昨年７月登別温泉で開かれた国鉄の大会を傍聴した私は，組合の大会というものは決してそんな生やさしいものではないことを実際に見て来た。無論沢山の人間が集まることだから，中には暇なときに酒を飲み奴もいるかも知れないが，それは組合の大会とは直接関係のないことで，国会議員が夜間待合で酒を飲んだりするのと同じことだ。組合の場合には国会と違って食堂で酒を飲んで議場に赤い顔をして出て来たり小便をするような不心得な代議員はいない。現に，私は登別の町の人が「組合の大会というからもっと金をおとしてくれるものと思って町でも大に歓迎に力めたのですが，精々記念に土産品を買うくらいのことで，飲食店など全く金になりません」と嘆いているのを聞いているのである。
組合幹部が組織の金を使い込んだ事例があることも事実で，これならば恐らく私の方が平林さんよりも遥かによく実情に通じている。しかし，これもごく稀な事実で，平林さんが「よくあります」といっているのは，果たして実際どれだけの事実をつかんでのことか知らないが，どうもいい過ぎのように思われてならない。過去において多少組合の金を粗末にする傾向はあったが，浪費や横領が多いというのはひどい。殊に会計を正確にすることが組合にとって非常に大切なことは，組合の人々も経験上段々に十分解って来つつあるのが実情で，よしんば過去に多少のことがあったとしても，最近ではすべてが非常に改善されつつあると思う。
しかし，それはそれとして，この座談会記事で一番いけないのは，個々の人々の発表にいい過ぎがあるというよりは，昔のいうことを綜合的に読むと，一人一人の人はそこまでいおうと思っていなかったに違いないと思われるような非常に誇大な間違った感じを与えることなのであって，これに対する主な責任は司会者にあると私は思う。つまり一人一人の出席者が余り根拠のハッキリしないことを如何にも自身ありげにいっているのもよろしくないが，それらのつなぎ合わせから更に大きな誤解を生むような記事を作り上げた司会者がよろしくないので，苟もこれ程重大なことを雑誌の記事にする以上，一人一人の発言者にも少し具体的の事実を述べさせて，全体的にも誤解が起こらないように注意すべきであったと思う。殊に，平林さんが「攻撃的に質問」云々といっているのを受けて，伊馬氏が「聞いたところでは」云々といっているのを読むと，平林さんは恐らく実際にはそこまでいおうとしていなかったに違いないと思うのだが，伊馬氏の発言までをも全部肯定している感じがどうしてもする。つまり組合では温泉地でないと大きな宿屋がないなどと弁解しているけれども，実は「酔っ払ったらひっくり返って寝ちゃう」のに便利だから温泉地を選ぶのだといっているように聞こえる。その上直ぐその後に「組合の金を使い込んだというのがよくあります」といっているから，どう考えても大会で酔っ払うことと金を使い込むこととの間に因果関係があるといっているように読めるわけで，ここらがこの座談会記事の最もいけない点だと思う。
こう考えると，座談会というものは中々むつかしいもので，特に司会者の責任は非常に重いといわざるを得ない。折角立派な方々を集めても，司会よろしきを得なければ，結局井戸端会議の議事録のようなものができあがる。
断 腸 の 記
――癌の早期発見の必要について――
「断腸の記」由来
昨秋〔昭和25年〕９月初めから１２日にかけて１００日あまりの間長い長い生まれて初めての病院生活をした。病気は直腸癌という難病で，そのため手術を受けてちょうを４５０センチも切りとって仕舞った。そして今ではどうやら再び働ける体になりそうなところまで回復しつつある訳だが，癌殊に直腸癌について世間の人が一般に余り知識をもっていないように思うので，自分の経験を多少ここに書いて見たい。
直腸癌といと，世間では一般に非常に恐ろしい病気のように考えているらしいが，自分の経験によると本人が多少ともこの病気について予備知識をもってさえすれば，決して治らない病気ではない。ただ無智のために手遅れになるおそれが大いにある，その点に気をつけて早期に医者の世話になれば決して助からない病気ではない。私の場合でも医者から見ればかなり手遅れであったらしいが，それでもどうやら全く手がつけられないという程手遅れになっていなかったものと見えてまずこれなら大丈夫と思われる程度の手術をして貰うことができた。もっとも発病後相当の時間を経過しているから，医者の所謂淋巴線転移が既に行われている公算はある程度あり得る訳だから，余り大きな口はきけないが，それでも差し当たり手術は見事に功を奏したらしく，お陰でどうやらここ当分は又仕事のできる体になったように少しとも自分は考えている。
まだ 病気静養中で本格的の仕事はできないが，どうやら筆を執る気力ができたのを幸いつれづれなるままにこの文をつづる。題して「断腸の記」というと，言葉の聯想から，何か美しい感傷的な物語でもでて来るように思われた方があるかも知れないが，言葉の通り断腸實録にすぎないから，その積りでお読みを頂きたい。
早期発見
病気にはすべて早期発見が大切である，中でも癌の場合には早期発見が絶対に必要で，遅れれば必ず命取りになると言われている。癌には今までのところ特効薬が発見されていない。ラジュウムだとかレントゲンだとか，また新に出て来た原子爆弾の副産物であるアイソトープにしても結局は放射能によって病組織を破壊するだけのことで，使い方によっては大いに有効らしいが，特効薬的の力はない。だから，結局は発病後成るべく早期に発見して患部が小さい間に外科手術で切り取るなり，放射能でそれを破壊して仕舞う以外に手はないものらしい。
だから，現在医学者は早期発見のために色々とその方法を研究しているらしく，またある程度まで成功もしているらしいが，厄介なことに如何に早期発見の方法が発見されても，患者本人が診て貰いに来なければどうにもならない。それ程，癌という病気は本人がそれと気付いて早期に医者のところに駆けつけて来ないものらしい。無論，同じ癌でも，出来る場所によっては――例えば舌癌のように――本人にも比較的早くから気がつく場合もあるらしいが，胃癌その他内臓の癌になると中々分らないもののようである。
私のやられた直腸癌の如きは，患部の地位の関係上，医者が診さえすれば発見は比較的やさしいように思われるのだが，困ったことには本人が中々医者のところに来ない。それ程早期には本人が特に病気だと気づかないのである。その原因を自分の経験から考えて見ると，まず第一に直腸癌というものは余程悪化するまで本人に大して苦痛を与えない。そして，悪いことにわれわれ素人は子供の時から病気は痛いものと思い込んでいる。例えば歯にして，愈々痛くならなければ中々医者のところに行かない。私の場合でも，後から医者にきかれて見ると，病状とも見るべき現象は既に一年も前にあったらしいのであるが，それが必ずしも継続的に現われて遂次的に悪化するということもなく，殊に最後まで何等痛みを感じないのだから，どうしても常識上大した病気とは思えず，それがついつい医者に診て貰うことの後れた最大の原因である。
第二の原因は，病気になっても体が中々弱らないことである。大概の病気は，その進行につれて急速に体が弱るものとわれわれは常識的に考えている。だから，直腸癌のようなおそろしい病気であれば必然体は大いに弱るものとわれわれ素人は考え易いのである。ところが，私の場合を考えて見ると，もしも発病が一昨年の初夏頃であったとすると，それから一ヵ年間私は非常に沢山の仕事をしている。まず第一に，７月から１２月にかけては中労委の忙しい仕事の合間合間に凡そ利用し得べき時間のほとんどすべてを使って「日本労働組合運動史」という３００頁ほどの本を書き上げた。１２月の末から３月下旬にかけては４人の若い元気な人々と共にアメリカに旅行して可成り無理な生活をつづけたが，その間も後から考えれば直腸癌の病状と思われる現象が時々あったのだが，旅行と仕事にはほとんど事を欠いたことがない。それから，３月に帰国してからも，石炭争議の調停で約２週間忙しい生活をした上で，いよいよ中労委にお別れをしてから後も，４月中は一時いわば旅の疲れともいうべき疲労を多少感じたことがあるが，５月以降いよいよ９月に入院するまでは講演の連続で，北は北海道から南は関西地方にかけてしばしば旅行をしている。その間にやった公演の度数は恐らく５０回を越えているだろう。無論，こうしている間にも，６７月以後は便秘症状が段々に悪化し，これは是非一度医者に見て貰わなければと思うようになったのであるが，それにも拘らず体力の方はほとんど前と変わらず，現に７月上旬の北海道旅行に続いて関西に旅行した頃の如き何等健康上の支障を感じなかった。ただし今から思い出して見ると，アメリカ旅行中もその後の内地旅行でも，食物を余り喰わないのをいぶかしがる人がままあった。後から考えれば，それは病的な便秘の影響にあったに違いないのだが，もともと私は若いときから大体小食であったから，別に気にも止めなかったのである。
このように痛くもなし，また特に体力の衰えも感じないのだから，本人はどうしても自分を大病人だとは思わない。これが抑々多少変だとは思いながら，医者に診て貰うのがついつい後れた原因であるが，後から説明を聞いて見ると，直腸癌の場合には胃癌なぞと違って患部が消火器の最末端にあるため，食った物の消化や吸収は患部にくるまでにすべて終わっているから，病気の進行にも拘らず体力は余り衰えないものらしいのである。だから私なぞより立派な体をもっている人であれば，最後まで頑張って手遅れになり易いのは当然で，これはこの病気に関する常識として是非知って置くべきことだと思う。
それでは結局私がどうして医者に診て貰うことになったかというと，それは全く偶然なことで，８月１０日頃講演旅行から帰って見ると，留守中妻がたまたま読んだ婦人雑誌の知識に基いて「どうもあなたの病気は直腸癌らしいから早く医者に診て貰う方がいい」という注意を与えてくれたからなのである。それで自分でも段々悪化して来る便秘には閉口していた際なので，半信半疑のままながら，早速家庭医の紹介によって胃腸病の専門医である博士に診て貰うことになった訳だが，もしも妻の注意がなかったら，恐らくもっと後れて取り返しのつかない程手遅れになったに違いないと思っている。というのは，当時も体力と気力だけは少しも衰えて居らず，現に９月には２週間位の予定で吸収に講演旅行をする約束をしていた位だから。
こういう段取りで，いよいよ９月５日には入院してO博士の外科手術を受けることになったのだが，それまでにH博士とO博士とから初期的病状についての質問を受けて見ると，発病はどうやら前年の初夏前後であったらしく，８月初句熱海のホテルで労働組合運動史を書いていたときに，確かにそれと覚しき異常があった。即ち，排便に多少の困難を感じ，糞の形が狭いところを無理に出て来たように細くなっていた外，それに多少の血液が附着しているのをハッキリ認めたのである。ところが別に痛みもない上に，そうした異常もいつとはなしになくなって仕舞ったので，これが直腸癌の病状であろうなぞとは夢思わず，肛門に何か一時的の故障が起こった位に軽く考えて，医者にも見て貰わなかったのである。私の場合は幸にその後の病気の発展が比較的早くなかった関係から，甚しい手遅れにもならずに済んだのであるが，無智の結果とは言え，こうした病状を軽々に見過ごしたのは非常な手落ちであったと言わなければならないのである。
入院と手術
いよいよ入院したのは９月５日の午後だが，その時の気持もどういうものか至極呑気で万一にも生命の危険があり得るなぞとは全く考えなかった。それというのも，病気に関する知識が全く欠けていたからで，O先生が手術を引き受けてくれた以上，必ずや簡単に癒るものとひとりぎめにきめていたのである。
入院の翌日からは毎日手術の準備として直接の患部はもとより体のあらゆる部分について綿密な検診が行われた。即ち，患部の状況がどんな具合であるかを触って見たりレントゲン写真にとったりした外，病気が他の内臓等に転移していないか等が次々に色々な方法で調べられたのである。その結果いよいよ１１日に手術ということにきまったのだが，検診の結果については直接何も聞かされていなかったから，不相変至極呑気で，暇な時間には専ら退院後の仕事のことを考えながら予め持ち込んだ本をしきりに読んだりしていた。
後から聞くと，妻は先生方から色々のことを聞かされていたらしく，殊に結局どの程度の手術をすることになるかも，いよいよ患部を切開して見なければ分からない，したがって手術の当日ももしも手術に時間がかかれば徹底的な手術が行われつつあるものと思え，これに反して比較的短時間に終わるようであれば，患部が既に相当悪化していて一応当面の手術しかできなかった証拠だと思えというようなことを聞かされていたらしいのである。
それでも，前日いよいよ医者のすすめにより帰宅して入浴をし，更に午後３時からは絶食して下剤をかけられ，その上輸血をしたり葡萄液の注射なぞを始められると，急に病人らしい気持になって，多少は心細くもなる。その内に夜になると，下剤の後始末をしたり，手術の準備として下腹部から陰部にかけての毛を剃ってくれたりする。そうして仕舞には生まれて初めての睡眠剤を飲まされる。
翌朝眼が醒めたのは何時頃であったか，もうとうに明るくなっていた。薬のせいで非常によく眠ったものらしく，気持は甚ださわやかである。朝食は無論抜きだから顔を洗ってから又ボンヤリしているとやがて時間が来て色々と手術の準備が行われる。そして仕舞に「これでよく眠れますよ」といって看護婦が睡眠薬を注射してくれたが，やがて運搬車が来て病室から運び出された頃にはもう前後不覚に陥っていた。こんなに薬のきく病人は珍しいと医者が言っていたそうである。
それからどの位たったか知らないが，いつの間にやら目が醒めて見ると，顔の真上にギラギラと反射する電燈が光っている，白い着物を着た人が横になっている自分の廻りをしきりに動き廻っている，そして手術は既に大分進行したらしく，何かしきりに尻の辺をゴリゴリやっているのがかすかに感ぜられるが，無論何等の痛みも感じない。
間もなく手術はすべて終わったらしく，臥たまま着物を着せられて運搬車に移されて静かに病室に運びもどされた。あとから聞くと，病室を出てから戻るまでに４時間半，それから手術には賞味２時間29分かかったのことであるが，この手術としてはまず第一に臍から益田に４５センチ腹を切り開いて，そこから直腸とそれにつながるS状結腸を大腸から切り離し，その上で大腸の末端を下腹部に左端にあけた穴から引出して人口肛門を作る作業をした上で，次に肛門を中心に尻の所を切り開き脊髄の末端である薦骨まで削り取って，その切り口から直腸その他癌に犯されていると覚しき部分を取り出したのであるが，この手術は何分にも患者が膀胱，尿道，摂護腺なぞに隣接している関係上これ等を傷付けずに患部を切り取るのは非常に難しい仕事であったらしく，これに可成りの時間をとったものらしいのである。
そして，手術の結果この部分には可成り大きな空洞ができて，その後段々に肉が出来てそれがふさがるまでには可成り長い時間を要した訳である。その上直腸は人間の体のゴミタメ見たいなところで不潔だから，いくら消毒をしても化膿し易く，そのため胃癌なぞの場合と違って切開したあとを簡単に縫い合わして仕舞う訳にゆかない。現に私の場合の如きも手術後４５日を経てから更にこの部分に再手術を施し，その傷口にはガーゼを当てたまま繃帯したような訳で，胃癌の場合なぞに比べると仕事は甚だ複雑なのである。
しかし，こうした長い手術の間心配しながら病室に待っていた妻が，やがてO先生に呼ばれて行って見ると。手術は非常にうまく行ったからもうこれで御心配ありませんといわれたそうで，これを聞いて妻も心から安心したと後から話していた。実際後から聞いて見ると，患部の様子次第では結局当座の手当しか出来なかったかも知れない不安は相当あり得た訳で，それがこうして先生も満足されるまでの手術をして貰えたのだから，なんといっても非常な幸運であったと言わなければならない。
激痛の四十日
手術そのものは麻薬のお陰で無論何等の苦痛なしに行われた。その後も，腹部の手術跡は仕舞までほとんど何等の苦痛を感ぜずに，どんどん癒ってゆき，余り気がつかない内に人工肛門も完成して活動を始めた。もっとも手術後の第一夜だけは下腹部に瓦斯が充満したような感じがして，一晩中妻や看護婦を大分困らせたが，これも翌日医者の説明によると麻薬のため一時止まっていた腸の蠕動くが始まったためであったとのことで，翌朝にはもう治まってしまった。
それから４５日して，背部にも一度手術が施されたが，これは大したこともなく，以後１０日位は比較的平穏で，手術直後の飲食物制限もやがて解け，食欲さえあれば何を食っても差支えないということになって，気力も日に日に快復して行った。そして背部に傷口があるため仰向けの姿勢で臥ることができない以外には大した苦痛もなしに，目醒めている間は，絶えず何か本を読んで暇をつぶしていた。
ところが，廿八日になって背部の傷口にラジュウム挿入してから急に形勢が一変した。このラジュウム使用は，手術のあとに尚多少とも残存しているおそれのある癌組織を放射能によって破壊することを目的とするもので，念には念を入れての手当である。これは僅かに約５０時間の仕事に過ぎなかったが，その間が既にかなり痛い。しかし，本格的の激痛はその後４５日してから始まって１月一杯続き，そのために随分苦しい思いをしたが，後からO先生の言われるところによると，本当の痛さは先生方と妻のみが知っているので，私は知らないのだろうとのことであった。と言うのは，余り苦しがるから，やむを得ず鎮痛剤と睡眠剤とを交互に注射したり飲ませて，半ば無感覚に私をしてしまったのである。だから本人は本当の激痛は遂に知らなかった訳だが，それでも痛いことは痛く，その上痛みはいつまでたっても中々去らない。しかし，薬害のおそれがあるので，そういつまでも強い薬を使うわけにはゆかないので，２０日位してから後は鎮痛剤と称してヴィタミン剤を注射したり睡眠剤と偽って消化薬をのませたのだそうだが，これは後から聞いたことで当時本人は無論気がつかなかった。それでも，どうやら苦しみが緩和されていたところを見ると，無論一つには当時既に痛みが段々に薄らぎつつあったに違いないのだが，も一つには――医者はどう言われるか知らないが――どうも条件反射的な作用があったのでないかと自分は考えている。
こうした苦しみが漸く遠退いたのは１１月５日過ぎであった。そして，その頃になると背部の傷口も段々癒って来て，繃帯も簡易化され，たしか１０日であったと思う，初めてベッドを降りて歩いて見た。
二重人格
苦しかった４０日間の精神状態は，跡から妻に聞いてみると，甚だ異常なものであったらしい。無論薬の仕業なのだが，自分のことだと思うとなんとなく気味が悪い。
その頃の精神状態を一言にしていうと，一種の二重人格で，眼の醒めている自分と夢の自分とがハッキリ分かれている。その上眼が醒めてからも夢で見たことの印象がハッキリ残っていて，どうしても夢だと思えず，夢で見たことを真顔で妻や医者に話したこともあるらしいのである。だから，これも後から聞いたことだが，医者もこうした精神状態が余り長く続くようなら，あるいは精神科の医者を呼んで来ようかと言われたことさえもあったそうで，側から見ると余程変なものであったらしい。
私はもともと夢を余り見たことの無い男で，殊に年をとってからは夢を見た記憶が全くない。ところが，今度見た夢はその内容が豊富であるのみならず，印象が極めてハッキリしている。夢ではほとんどいつも大きな飛行機にのって日本国中を南北に飛ぶのだが，一度は雪のベルリンまでも飛んだことがある。そしてそれぞれの場合に見た景色や会った人物の印象も可成りハッキリしている。だから醒めてからも，なんとなく夢だとは思えず，ついつい現実と混同して人に話すようなことになったらしいのだ。が，今でも惜しいと思うのはあの数多くの夢をその都度筆記して置かなかったことである。
夢の私が活潑であったのに比べて，眼醒めた私は憐むべき半狂の状態にあったらしい。無論本人は全く気がついていない。眼が醒めている間は，不相変盛に本を読むのだが，それも読書慾が中々旺盛で新聞雑誌はもとより清水幾太郎の社会学や青山秀夫のマックス・ウェーバーの社会理論というようなむずかしい本までを態々買って来て貰って読む。そうして当時としては結構すべてを理解し得たように思っていたのであるが，さて１１月中旬になって精神状態がほぼ復旧してから気付いて見ると，当時読んだことの多くが記憶されていない。第一毎日読んだ筈の新聞記事はほとんど忘れられている。例えばアサヒ・グラフの１１月の号に国民体育大会の写真が出ているのを見て，成程国体があったのだナァと初めて思い出すような次第で，１０月から１１月初めにかけての世間の出来事はほとんど記憶にない。長谷川如是閑の自敍伝などに大いに愛読した筈なのだが１２月になってからも一度読んで見ると，初めて読むような気がした位で，あの１０月中の自分は一体何であったのだろうと今更ながら変な気持がした。夢の自分が割合にハッキリしているのに比べて，目醒めていた筈の自分のしたことはほとんど思い出せないのだから，誠に変なものだと言わざるを得ない。
退屈と我儘
１１月１０日前後に精神状態が段々に回復し，繃帯も簡単になり，時々はベッドから降りて歩けるようになって見ると，今度は段々に退屈感と我儘が頭をもたげて来る。そして恐らく薬害の影響だと思うが，ひどく神経過敏になっていて，あらゆる体の故障を次々に見出してはそれを過重視する。いまから考えると，相手になって一々苦情をきいた妻と医者は随分迷惑だったろうと思う。
まず第一に，少し鼻や咽喉に故障があると，息がつまって今にも死にそうな気持になることが時々ある。医者に訴えて見ても，それはあなたの神経が上等に出来過ぎているからだというようなことで，神経を鎮める薬をくれるのだが，そんな事では中々癒らない。
次に時々激しい肩のこりが襲って来る。これ一にはやはり麻薬の影響らしいのだが，何分にも生まれてからこの方肩のこりを経験したことのない自分にとっては甚だ大問題で，これも何か適当な薬がありそうなものだと思うのだが，うっかり睡眠薬なぞを使うと精神状態が逆転するおそれがあるからであろう，一切薬はくれない。結局紅茶にウィスキーでも入れて飲んだらよかろうということで，初めて茶サジ３杯のヘーグ・エンド・ヘーグを入れて飲んだ紅茶の味は未だに忘れられない。しかし，この療法は中々有効で飲むとすぐ陶然として来るというとおかしいが何分久振りのことだから甚だききがいいのである――。そして後頭部がスーッとして来るのである。もっともこの療法も段々ときかなくなって，後にはしばしばマッサージの世話にもなったが，それでも何かと言うと紅茶を入れて貰って，紅茶には利尿の効能があるなど勝手なことをいいながら，いよいよ退院するまでには結局２本半のウィスキーを平らげてしまった。
それから次に始まったのは胃腸のアトニーで，これにも随分なやまされた。何分にも食慾があると思って食ってみると，急に胃の中に突然はって来る。その上頑固な便秘が始まって折角の人工肛門が中々用をなさないのであるから，さらぬだに退屈している病人にとっては甚だ不愉快で，自然色々と苦情がでる。相手になる妻は随分閉口したらしいが，結局妻自らの経験に基いて，胃アトニーには梅干より外仕方がないということになり，お陰で食事の度ごとに盛に梅干を食った。ところが便秘の方は中々そう簡単にはゆかない。結局下剤や潅腸の世話になって色々苦労をし，退院の際も便秘対策を色々教えられて用意までしたのだが，不思議なことには退院の翌日になるとピタリと安全に癒って仕舞った。
その外，何分にも長く入浴しないから，時時体がかゆくなる。そして一度かゆくなると居ても立ってもいられなくなるのだが，これなども退屈病の一で，外に何か故障があるときにはかゆくならない癖に，全く故障がないとなると兎角何処かがかゆくなる。つまり神経過敏になっているから次々に体の故障を発見してはそれを過大視する癖がついているのである。だから一々細かく数え立てると，この時期にはこの外にも随分色々の故障が出てその都度妻をなやました訳だが，そういう過敏癖は退院後の今日もなお多少残っているらしい。現に最近にもこんなことがあった。入院中の癖でどうかするとすぐ脈を数えて見るのだが，ある日寝てから数えてみると１００以上もある。しかも頭もいたくないし別に熱のある様子もないので，変だ変だと思いながら，何度もとり直して見るが依然として減らない。仕方がないから不安な気持で静かにしていると，何処からともなく，ラジオの時報が聞こえて来た。それによると，自分が脈を数えるのに使った海中時計と大分時間が違う。変だなと思って，枕元から時計をとって見ると，何のことはない，時計は既に止まっているのである。つまり時計がもう止まりかけているのに気がつかないで，脈を数えていた訳で，思わず一人で笑ってしまったのであるが，こうしたこともすべて神経過敏の致すところである。
レントゲン照射
ラジュウムのことは既に書いたが，も一つ最後にレントゲン照射を受けたことも書いて置きたい。これも放射線科の先生の言葉を借りていうと「手術とラジュウムで既に火は消えているとは思うが，万一残火があっては大変だから念のため水をかける」というような意味をもつ手当で，手当そのものは毎日２０分間ずつ１５回照射を受けるだけのことで，退屈だという以外には痛くもかゆくもない，いやむしろ張り合いがない位楽な作業である。こんなことで癌が治るものならば誠に有難いものだという位の気持ちで，毎日気軽の深部治療室に足を運んだのであるが，さて照射を終えてから１０日たち２０日たって来ると甚だ有難からぬ効能が現われて来る。無論治療という有難い効能があるのだから，同時に多少はいやなことがあっても当然のことだが，何分にも照射そのものが楽であったため，あとになってこんなのとになろうとは夢予想もしなかったのである。もっとも尻にヤケドをしたと思えば大したことはないのだが，もうようかろうと思う頃に後からヤケドの痛みが出て来る。その上場所が悪いので立ち居振舞が甚だ窮屈で，坐ると殊にあぐらをかくことができない。椅子も安楽椅子は禁物で，むしろ固い椅子の方が多少楽だというのだから甚だ始末が悪い。そして絶えず尻の辺を無意識にかばっている関係上，身体全体に無理ができるものと見えて，ややともすれば肩がこる。しかも今度の肩こりはウィスキーでも中中治らないのみならず，飲むと反って痛みを増すような気がするのだから甚だもって始末が悪い。
こんなことで，退院後１ヵ月を経た今日他のことはすべてOKで日に日に体力気力を快復しつつあるが，レントゲンのなやみだけはまだ中々とりきれない。しかし，考えて見れば，これ程協力であればこそ，癌組織の破壊にも役立つ訳で，少々の痛みくらいに小言を言うのは不心得千万な次第である。
さて，下らない話が大分長くなったが，なぜ医者でもない私が今更らしくこうしたことを書く気になったかというと，どうも一般の人が直腸癌のことを知らな過ぎるように思えてならないからである。殊に私は今から十数年前に子供の時から親しくしていた二人の友人をこの病気のために相次いで失ったことがある。二人共子供のときから体がいいので有名な体育人で，中々４０題や５０代で死ぬような人ではなかった。それが簡単にやられてしまったので，今度自分が同じ病気に罹るまでは，唯何となく直腸癌と言うものは非常に恐ろしい病気だという漠然たる感じをもっていただけで，なぜあの二人がああも簡単にやられたかその原因を深くも考えずにいたのである。ところが，今度聞いた医者の噂話によると，二人の場合とも非常に手遅れであったらしく，それでこそあのまだ若い健康な人達がああも簡単にやられてしまったのだということが分かって見ると，是非ともこの機会に早期発見の必要を一般に人に知らせて見たい気持になったのである。
断 腸 後 記
――内 憂 外 患――
一日も早く「断腸」と縁を切りたいのだが，中々思うようにならない。一刻も早く完全に病苦を免れて，世間の人にも病気のことをすっきり忘れて貰いたいのだが，内憂猶未だ全く去らず，外観またしきりに至る。病後静養の生活も中々楽ではない。
手術そのものは幸にして成功したらしい。手術の創口もほとんど治ってしまった。しかし何と言っても大きな手術のことだから，そのためにこわされた体全体のバランスが中々回復しない。気だけは確かなつもりでも，体の調子がまだ全体的に調整されていないから，少し無理をすると色々の故障が出て来る。退院後まず第一に現われたのは肩のこりである。手術の創あとをかばうため，ついつい無理な姿勢をするのが原因らしいが，一度現われたが最後中々もって退散しない。肩のこりの如きは医者は初めから病気の中に入れていないから治してもくれない。仕方がないからマッサージの世話になる。すると，「これ位のことならむしろ奥さんの方がヒドイ」と言う。暗に亭主の意気地なしを非難するのである。しかし，いくら叱られても痛いものは痛い。ひどくなると，筆がとれなくなるばかりでなく，頭のシンまで痛くなって寝ても立ってもいられなくなる。これよりヒドイと言われる奥さんが余りに苦にしていないらしいのだが不思議でならないが，恐らく多年修行を積んだ結果に違いない。しかし自分だけは余り修行を積まない内に一日も早く全治して欲しいと思っている。
次に出て来たのが腰痛だが，永い間寝ていたものが元気の回復するにつれて急に歩き廻ったり長時間椅子に坐ったりして腰の筋肉を酷使したためらしい。これも高が腰痛位と人は笑っているが，修行の足りない自分にとっては中々もって内憂で，少しひどくなると，起きて居られないのは勿論，寝ていても痛い。結局一時おさえの薬を飲んで仰向きに寝ているより外に手がない。そうして今更ながら７年間もあの激痛に堪えながら立派な仕事をした子規の辛抱強さに感心する。それでもこうしてボンヤリ寝ていると，いつの間にやら一切の雑念が去って何とも言えない安らかな気持になることがある。漱石が修善寺日記の中で「無言の玄境」といっているのはあるいはこんな境地を指しているのかとも思うが，不風流の悲しさ，未だ嘗て「一竿風つき，明窓浄几」なんて気持になったことはない。それにしても，腰痛を知って初めて子規のえらさを知る。あの病苦の間に色々の仕事をしているのみならず，人間としての進境をさえ示している。まだ三十五六の若さで，「余は今迄禅宗の所謂悟りという事を誤解して居た。悟りという事は如何なる場合にも平気で死ねる事かと思って居たのは間違いで，悟りという事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であった」と書いているのだから大したものである。
外患の方は主として「断腸の記」を書いたたたりで，あれ以来未知の人から手紙が沢山来るのに弱っている。もともとあれを書いた主な動機は，自分の経験上癌は早期に発見することが絶対に必要だということを広告して，一人でも同病者を助けたいという念願にあったのだから，多少の問合せが来る位のことは初めから予期していたが，その数が意外に多いのみならず，中には身の上相談のようなことを持ちかけて来るものさえある。もともと筆不精の人間がこれに一々返事を出すのだから中々の大事業で，それに相手が命がけなのだから余りお座成りの返事もできず，これには全く閉口してしまった。正に静養中最大の外患である。それでも福岡のある人から，あなたの文章を読んだお陰で早期に手術を受けて入院僅３０日で退院したと言って礼状をよこされたのを見たときには，流石に嬉しかった。
後から医者に聞いたところによると，あれを読んだ結果，私のところに問合せをよこしたのとは別に，直接医者のところに診察を受けに行った人も大分あったらしい。そうして一面ではお陰でつまらない心配をしましたといっていた人もあるらしいが，何人かはきっと病気が発見されて手当を受けた人もあるに違いない。そう思うと，あの文章も余り無駄にはならなかった訳で，少し位の外患位は我慢してもよいらしい。
ところが，一番困ったのは，新聞の中に私の癌は新薬アイソトープを使って奇跡的に治ったのだということを書いたものがあるために，それに関する問合せが大部来たことがある。これには無論私には責任がないから返事を出さなかったが，その代わり新聞社に向かってアイソトープに関する正確な記事を載せて世間の誤解をとく責任があろうということを申入れて置いた。私の場合終始通じてアイソトープを使ったことははいからあの記事の不正確なことは言うまでもないが，それはそれとして，ああした記事がそうでなくてさえ癌に関する知識が足りない一般人の間に間違った考えを撒き散らすのは甚だよくないと思う。前にも書いたように今の所癌には全く特効薬はないらしい。成るべく早期に発見して患部を切り取るなり破壊するより外治療方法はない。ラジュウムやレンチェン線を使うのはその放射性能を破壊の目的に利用するのである。だからアイソトープの放射性能も同じ目的に役立つのは勿論だが，唯それだけのことであって，それ以上特別の効能があるのではない。もっともアイソトープは原子爆弾製造の副産物で，多量に出来るからラジュウムに比べると安い。その上，医者の話によると，ラジュウムよりも取扱がやさしいそうだからその内には医者の研究によってらラジュウム以上に癌の治療に使われることになるかも知れないが，今のところそれに必要な実地試験も十分にされていないように思う。専門外のことで誠に恐れ入るが，誰か専門家がこうした点を明かにしてくれるまでのつなぎとして，これだけのことを書いて置く。
第二部
日 記
訪米日記
癌を手術するまで
最後の日記
訪 米 日 記
１９５０年１月９日――同３月９日
１９５０年１月９日（月）
午前１時頃サンフランシスコ入港，腹少しこわしたが大したことなし。
１１時上陸（水連のgiftに１・７５〔ドル〕税をとられる）YMCAホテルに投宿したるもこの夜急に出発。船から一所の人々の外に〔１９４９年１２月〕２８日初の１０人ほどが一所になる。日本と紐育の太田氏に飛行便を出した外何も出来ず。
１月１０日（火）
６時半に目醒めてから午後４時ソートレーキにかかるまでの間ネヴァダ高原独特の荒野が続く。
雪少し積り気温零度位，時々牧場に牛〔稀れに馬〕を見る外waste landの連続。高度４５千とのこと。
６時半（山岳時間）Ogden着，７時半出発東方へ。
１月１１日（水）
６時頃目醒める。まだくらし。月光下薄雪の荒野美し。午後セントラル・タイムに入る。
東にしたがい田園が段々ふえる。駅も前に比べると立派になり町も大きくなる。
前日夕ソートレーキを渡りつつ読める歌
紫にくれゆく雪の山はだを
ひたして眠る大きな塩湖
新しき学びの道をあこがれて
六十路翁の旅立ちゆくも
遥けくも来つるものかな健かに
人の情を難有しとぞ思う
いぬる間にロッキーを越えてまっしぐらに
東をさして下りゆくわれ
ポーターの賃金 １ヵ月桑港シカゴ往復２回２４時間勤務にて１時間７０仙，組合費月額３弗（安いという）
１月１３日（金）
午前７時４５分ワシントン着。ハミルトン・ホテルに投宿。
１０時から労働省にゆき今後のことを打ち合わせ，午餐後１時半から５時半まで労働行政及びアメリカ労働史につき簡短な説明をきく。強行軍にて少々驚く。
１月１４日（土）
８時半漸く起き１１時頃めしを食う。清水，太田両君（紐育）に手紙をかく。フーヴァーが渡部君の手紙をくれる。
１時から労働省の人々とともに市中見物の後 Mount Vernon にゆく。暖かさ春の如し。下着を一枚にする。
１月１５日（日）
日曜の休みを幸い午前中毎日えの通信を書く。午後散歩の後，組合論の訂正をする。
Gift Freedom を読む。良き本なり。
１月１６日（月）
風多少寒し。９時頃より NLRB にゆきボール・ヘルツォーグ氏に会う。温顔の好紳士なり。ジェネラルモーター事件のヒヤリングをききたる後， Supreme Court にゆき，裁判を見学，各裁判官が意見を述べるのは良き習慣なり。
裁判所の食堂にて昼食後 Social Security Administration にゆき社会保障の話を（フランク氏），次いで失業行政の話をきく。
夕食，飼手，中脇両君と支那飯を食う。
１月１７日（火）
９時半から Mediation & Conciliation Service にて話をきく。それからコングレスにゆき，マーシャル・プランの委員会。
午後セネターにて Oleo 事件の本会議を見，それからコングレス図書館，３時半から５時半まで Labor Standards の話をきく。夕シェリー来る。
１月１８日（水）
朝まず労働省にゆき労働統計の話をきく。次に ECA （マーシャル・プラン）にゆき，二人の labor adviser と話する。
昼食後国務省にゆき東洋殊に日本関係の人々と日本の労働問題殊に国鉄仲裁のことを話する。
次に労働省に帰って婦人局の人と話をした。労働次官補カイザー氏に会う．偶然キレン氏に会う。湯浅さんと夕食。
１月１９日（木）
小雪ふれども寒さ感ぜず。
AFLにゆきドイツ代表と共に渉外部長及び鉄道関係の法律部長から話をきいた外，会長グリーンの挨拶あり。
昼食後 Chamber of Commerce，次に労働省にて団体交渉及び労働協約の話をきく。夕方クーリッヂによばれて支那料理の御馳走になり，それからアパートに行って１１時半まで話をする。
１月２０日（金）
快晴，多少寒けれども気持よろし。９時から労働省にて労働統計局の話をきき，１１時 International Association of Machinists を訪い副会長ウォーカー氏より話をきく。この組合は目下AFLを脱会中なるもクラフト・ユニオン的の特色強し。
昼食後ブルッキング・インスティチューションにより，次いでCIOを訪う。渉外部長より話をきく。AFLに対する態度明かなり。
５時半ヘルツォーグ氏と再会。夜第二邦人と会談。
１月２１日（土）
晴。２時頃からコングレス図書館にゆきたれども，土曜にて閲覧室は開いていたが目的の館員居らず，夕食後カンコーネン氏方にゆき沢山の人々と会談する。
１月２２日（日）
今日も晴れて暖い。午前中荷造りをし，テイラーさんに駅までとどけて貰う。
午後飼手さんと散歩し帰ってから毎日に第三信を書く。６・２５発の汽車にてアトランタに向う。寝台車及び食堂ともに極めて豪華なり。
昨日買った本を読み居たるに若き男話しかけ色々面白い話をする。戦争というものは勝っても負けても馬鹿なものだという。電話会社のものの由にて戦争中は諜報事務に従事した由。
１月２３日（月）
８時半アトランタ著，Textil 組合の女の人が迎いに来てくれた。アトランタ・ホテルに投宿。朝食後組合の人と共にジョージア州西北部の工場と組合を見る。五六十哩のスピードで１１時頃 Cedartown の毛織工場につき見学後支配人に組合の人と共に午餐の馳走になる。
次は Rome，まず第一が放送座談会，突然のことにて一寸面喰う。第二が County Jail に組合（化学繊維工場）の人がインジァンクション違反で入っているのを見舞う。第三に Rome の組合分会と Joint Board の事務所を訪問。
帰路工場地帯を見る。夜は Steal Union の一分会の総会（月２回）を見学，挨拶をする。特に感じたことども――
（１） ジョージャ州の後れていること
黒人問題――駅の黒人待機室（ネオンサイン）――工場でも黒人は使いたがらない――議会も裁判官も反労働的
（２） 繊維は南下しつつあり
（３） 食事時間中も機械を動かしていること
（４） 賃金は思ったよりよくい楽しそうに働いていること――女は５０％位
（５） 工場地帯
（６） 組織率の低いこと（２０％）
（７） 役員と給料（分会役員と代議員）
１月２４日（火）
朝，州議会を見学。驚くべく乱雑なものなり。われわれは議長席の横に席を与えられる。やがて公式に議員一同に紹介される。
議場には色々の人が入っている。子供を連れて議席についてコカコラをのんでいる女議員もいる。その間に議事は進行する。子供をつれて来て国際教育法の改良意見を実験入りで述べるものあり。
Casket を作る組合がストライキに入るや否や議する席に招待され，ここでも特に紹介される。星加，藤田両氏大演説をぶち，１弗ずつ寄附する。
午，黒人待遇の改善を目的とする会にまねかれ話をきく。午後はつかれて早く帰る。
１月２５日（水）
朝９時半から中脇さんと共に放送をした後，ＮＬＲＢの Regional office を訪い，この地方の事情を所長からきく。この地方に election case の少い理由――北方に比べて鳥がまだ多いから１匹の鳥をとり合うようなことはない，と。
この地方の組合幹部全体（主にＣＩＯ）の午餐会，会議各組合の人々より事情をきく。組合の政治活動とは立法を行うこと，選挙に当り Pro-labor の候補に応援する，選挙人名簿をしらべること。
４時半バスにて Knoxville に向う。１０時半ごろホテルに落ちつく。
１月２６日（木）
１０時ＴＶＡを訪い，マシューズと４日間の計画を打ち合わせた後，副支配人フォルスター氏より一般的の話をきく。ＴＶＡの歴史殊に政治的性質。
午後人事部の Vittori より３時間に亙り労資関係の話をきく。
５月頃の気候になり。外套を着る人なし。夜，飼手中脇両氏映画館にゆき， Dr.Suehiro かと聞かれた由
１月２７日（金）
今日は稍寒い。午前ＴＶＡにゆき，まず技術部の人からＴＶＡ全体の技術的機構に関する話をききたる後，農業部のベーカー氏から天然色幻燈によってＴＶＡの土地改良及び農業改良に関する話をきく。（農場行きは前夜の雨のため駄目になる。）
――この結果テネッシーの生活水準は急速に上がった。今尚後れているが１５年中にはこのおくれをとりもどすであろう，と。
午後マシューズの自動車にてノリスダムを見にゆく。車上 Knoxville は基督教の勢力の強いところである，その結果，市条例でウイスキーを売らないことになっている，４年目にレフエレンダムを行うという話をきく。ダムの玄関にノリスに対する組む藍から感謝の意を表した銅像あり。
今日の Knoxville News-Sentinel に昨日の写真と記事がでる。
毎日えの第４信を出す（アトランタのことを書く）
１月２８日（土）
他の連中がロンドンダムとフオンナダムを見物に行った留守を勉強する。今までの書類を整理する。
午後ＵＰのガーター氏来たり会談，ドライヴする。夕食を御馳走になる。
渡部さんに手紙を出した後，これから買うべき本をしらべる。
１月２９日（日）
小雨，時々降りて生暖かなり。終日手紙（竹村，桂）と原稿（法律時報）を書く。
午後ガーター氏再訪，中脇さんと共に話す。１１時の汽車にてワシントンに向う。
１月３０日（月）
１１時ワシントン着，マックスウィニー，テーラー，フーヴァ３氏と食事を共にした後，一人ホテル・ハミルトンにゆく。気分悪く薬を飲む。
１月３１日（火）
ブルッキング・インスティチューションにゆきて本を買ってから，労働省にゆきマックスウィニーさんの紹介でライブラリーにゆきスティールさんの世話にて午後まで書を探す。得るところ多し。よって予定より１日早くニューヨークにゆくことに決心する。
２月１日（水）
小雨，予定を一日くりあげニューヨークに１２時の汽車で立つ。フイラデルフィアあたりから薄雪積れり。
４時半Permステーションにゆき，予定の Slocus House にゆきたるに皆居らず。よってＹＭＣＡにゆきて中脇氏の帰るをまつ。
２月２日（木）
小雨。サブにてチェンバーズ・サークルまでゆきＩＬＧＷＵにゆき，ドイツ代表と共に話をきき映画を見る。午食後 Local の Forest Board にゆき Hochman より話をききたる後，工場をみる。
女工さん達が楽しそうに働いていること。――分業と機械化。
２月３日（金）
太田氏を訪ねたれど不在，コロンビア大学に清水治氏を訪い，午後まで世話になる。夕刻４時半頃，ハロルド氏を事務所に訪い，月曜日の約束をする。渡部さんからの手紙を受けとる。
２月４日（土）
朝１０時半 Institute of Relations を訪い，ミス・メリアムファーレイに会い，日本の労働組合のことの話をする。ホーランド氏にも会う。正午毎日の太田敏夫氏に会い高松棟一郎と共に飯を食う。
食後高松氏と共にブレンタノに行き本を買う。 Macy によってカレッヂの講義録と万年筆を買う（価 3.90）
２月５日（日）
朝８時からバイブル・ブレックファストに参会した後，新聞を読み午になる。
食後ミュジアムにゆき画を見る。 Degas の絵に比較的いいのが沢山あった。
４時から Donald Straus 氏を訪ね，奥さんと子供３人に会う。その外リビングストン夫妻も来る。労働の話，法律の話をする。陪審に女が多いのは，男には断る excuse が多いためだという。
２月６日（月）
９時ハロルド氏の案内にてまずNLRBの Regional Office を訪う。規模の大なるに驚く。問題になる事件はワシントンに送って決定する。次に State LRB,State Mediation Board, City
Division of Labor にゆく。
夜フーヴァーさんと食事，オペラを見せて貰う。出しものはプッチニの Gianni Schicchi とシュトラウスのサロメ。
腹を少し悪くする。
２月７日（火）
９時コロンビアにゆき清水氏と共にプリスレンダー教授に会った後，ユニバーシテイ・プレスにゆく。
２時に帰ってハロルド氏に案内されて Yunkers 市にゆき市長に会い， city court を見学する。
あとカーペット関係の会社と組合（CIO)を見学した後，夕食をハロルド氏によばれる。組合の事務長へ―ツ氏の話は特に面白かった。
―アメリカの労働組合が独裁的になることをおそれる。ルナスの話（かれは今まで実際に成功している），グリーンの話（かれは仲間を作って Intrigueで会長になる）マレー（この人は妥協家なり）。
２月８日（水）
８時に皆と共にグランド・セントラルにゆき送る。
ブレンタノにゆくが注文品ほとんど揃わず不誠意なり。マクミランも本なし。
コロンビアにゆく。３時頃から十数の米国人に日本の労働組合運動の話をする。ボルトン氏もいる。清水に別れてから，松山氏と共に湯川秀樹氏を研究所にたずねる。帰来手紙をかく。
２月９日（木）
９時雨の中をグランド・セントラルからデトロイトに立つ。
１０時５分デトロイトにつく。飼手君に迎えられ Weyne Universith の student center に入る。学校の女の先生の自動車にて。
２月１０日（金）
つかれのためか珍しく寝坊をする。
８時１５分朝めしも食わずに出かける。フォード工場を見学，午餐を御馳走になる。３時頃からUAWの本部を訪ね，組織その他の話をきく。役員総出にて親切なり。
２月１１日（土）
９時皆と共にUAWの本部を見学した後，組合のブックストアにゆく。組合がこの程度の書店を経営しているのに感心する（２割引してくれる）。
UAWにて午餐会を催してくれる。UAW本部にゆき放送のレコードをとる。夜インターナショナル・インスティチュート主催のダンシング・パーティに招かれる。ガバアナー大いに踊る。極めて愉快なり。
２月１２日（日）
終日手紙を書く。毎日えの第６信。夕方より在留邦人に招待される。
２月１３日（月）
雪やみたれども時々雨降る。
午前中バーディさんの案内にてUAWのメデイカル・インスティチュートを訪う。日本に比べて制度としてはおくれている。 social health insurance のないためなり。
午後バーディさんとブック・ストアーにゆきシネマを見る。夜バーディさんを訪う。ウェイデマン氏にトランクを貰う。
石炭節約のため明後日のシカゴ行きにつき多少の不安あり。
２月１５日（水）
曇，時々雨。朝手紙を書き正午CIOの Regional Council の午餐によばれる。２時４５分UAW本部にロイターと会う。
星加の間，共産党と戦う方法如何に対し，極めて簡明に答える。流石なり。曰く，①共産党の人より早く起き晩くねること。②共産党を攻撃することよりは組合員のためによいことをしてやること，米国の支那に対する失敗は国民党を助けることのみを考えて，支那の一般民衆を助けることを忘れたこと，③ランク・アンド・ファイルの教育――特に共産党は組合員のために働いているのではなく，組合員を共産党のために，引いてはソヴィエットのために――
夕方小泉秀吉さんの娘と河原さんと共に夕食し映画を見る（サムソンとデリラ）。
２月１６日（木）
雨少し降る。１０時皆より先に駅にゆきトランクをチッキにする。１２時４０分発シカゴに向う。汽車は予想と違ってすいている。
５時頃着，ケンズリー氏初め四五人の人々に出迎えられる。YMCAホテルにとまる。宿料６日分１７弗２５仙なり。夕食に招待された後（ポカデリー・レストラント）トランクをとりにゆく。天気よけれど風寒し。
２月１７日（金）
きれいに晴れたはだ寒い朝，８時の汽車で Gury に行き終日学校見物。 Gury system の形のみ残り精神がなくなった感がある。
２月１８日（土）
８時シティホールに教育局長を訪う（ハロルド・ハント博士）。９時の列車にて再び Gury にゆき，吹雪の中を Steel Mills を見学。２時帰来，食後ブレンタノにゆき本を見る。
２月１９日（日）
朝，Lounge にいると，慶松一郎着いたばかりとのことにて，４日発一行の噂をきく。４時頃ケンズリー氏のリンカーンでドライヴ，エバンストンまで行く。この方面の発達に驚く。
２月２０日（月）
寒気強し。皆はケンズリー氏とスプリングフィールドにゆけるも，腹工合よろしからず一日静養。朝はブレンタノに，午後はシカゴ大学のブック・ストアにゆき本を買う。夜これらを読む，面白し。
２月２１日（火）
朝からAFLのシカゴ本部を訪う。何となく気ぬけした感がする。
午後皆と別行動をとり，シカゴ大学にゆきラインシュタイン教授に会う。５７番外の本屋もとのままあり，なつかしく思う。バウンドの Sociology of Law を見つける。
２月２２日（水）
大雪の中をタウンゼント氏を訪い，午后藤井寮二氏のシカゴ新報を訪う。
夜毎日えの通信を書く。
２月２３日（木）
天気回復，しかし夕刻より又雪。
朝から学校を２つ見る。夕方日本に長くいたという老人に会う。
２月２４日（金）
スミスに迎えられてケリー・ハイスクールを見学，午食を御馳走になってからシカゴ大学にゆく。
ラインシュタイン教授と共にドイツ人の集会にゆき後教授の研究室にて会談する。
①本出版の件，②北支慣行調査の件，③雑誌原稿の件
帰来皆と共に支那飯を食う。
２月２５日（土）
オートモビル・ショオを見学した後，シカゴ大学に行き昨日会ったドイツ人Hohneに会い，ドイツの実情をきく。資料交換の約束をする。
２月２６日（日）
晴れたども寒し。
Aquarium と field musium を見物。夕刻映画シンデレラを見物。
２月２７日（月）
一同にてケンズリー氏の事務所を訪う。マーシャル・フィールドに行き，種子と子供の靴を買う。
夕刻より藤井氏夫妻の案内にて夕食を共にしたる後 Resettlen Committee にて講演し晩く帰る。
２月２８日（火）
Mr. Fenkeに見送られてシカゴの市空港を立つ（Am. 11. 20）。
雪はやがて晴れて快適な飛行日和。ユタ州に入る。雲の中にて一寸揺れた外極めて平穏な飛行。コロラドの赤い荒土，ネヴアダの灰色な荒野，シェラネヴアダの雪を越えて緑のカリフオルニヤに入る。
空港着 Pm. 7. 20（太平洋時間）。モアランド氏に迎えられてホテル。スチュアートに入る。久振りのホテルにて気持よろし。
３月１日（水）
モアランド氏に迎えられて電車にてカリフロルニヤ大学に行き，ランドウアー教授の世話にて学内見学。ライブラリー使用許可を得る。テーラー教授，フーガトン教授に会う。
学生自治会の学生に会い帰る。飼手，中脇両氏と夕食。
３月２日（木）
朝，フオード・メーソンにゆき荷物を受取る。金９０弗貰う。
午後中脇さんと Rali Express に荷をとりにゆく。
夜，高橋繁太郎氏に招待され（日本食），あとドライヴして１２時頃帰る。下痢の気味なり。
３月３日（金）
終日物を買う。本１３弗，靴下９弗，毛糸２８弗。 Railway Expressより荷物到着す。
夕刻よりサンフランシスコの AFL Council の例会会合を見学。
３月４日（土）
買い物をする。孫等の着物を買い過ぎる。夜，吉岡勇，飯野光敏，嘉野敏夫来訪。 Hold baggageの発送にて大騒する。
３月５日（日）
朝一寸散歩。午後アメリカン・ジャパニーズ・シテイズン・リーグを訪問，日系米人の近状をきく。ドライヴの後，夕食の御馳走になる。
３月６日（月）
朝フォード・メーソンにゆき乗船手続をする。それよりオークランドのUnited Steel Workers Unions の Subdistrict 事務所を訪う。注射の結果多少熱出る。
夕刻土地の方々の歓迎を断って早く憩む。
３月７日（火）
熱まだ多少ある様子なれども，買い物に出る。
夕方早く寝て床中に新聞を読む。ニューヨーク・タイムスもこれにてお別れと思うと残念なり。
３月８日（水）
９時乗船（Gaffey号），１１時半出帆。
海静かなり。なお熱多少ある様子故，薬を飲みて早く寝る。
３月９日（木）
１時間時計を retard する。波依然として静かなり。
正午，昨日よりの走航４９０哩余，夜映画を見る。
熱とれた様子なれど食慾少し。この船は前のより食事よろしからず。
癌 を 手 術 す る ま で
１９５０年６月２７日――同９月９日
１９５０年６月２７日（火）
午後６時５分の急行にて，上野発，野口君同行。発射に先立ち十条製紙勤労部長田中慎一郎氏来り，先日の幹旋の結果につき中間報告を為す。会社は受諾の覚悟なるも組合は尚評議会の由，アイスクリームをくれる。
夕刊を見るに，朝鮮は既に京城陥落の様子。
８時１５分水戸を出る頃まで車中西日にて暑かりしも９時過てからは涼しくなりよくねむる。
６月２８日（水）
寝台車はそのまま連絡船により１０時５０分青森出帆。船中木村禧八郎，砂間一良（共産党），鈴木氏等と会談。
快晴海静，２時函館着，３時発。美しい噴火湾の風光を賞しつつ８時東家蘭着，迎えられて富士製鉄クラブに宿る。
輪西製鉄所副所長佐山励一，組合長熊谷不二夫等６氏来訪。
６月２９日（木）
快晴５時起床。
わが国の復興と労働問題（輪西にての講演予定）
敗戦と復興（デンマークの例）
復興は労働の結果を積み重ねるによってのみ可能
終戦後５年の回顧
(明) positive の面――アメリカの援助を呼び水として，とにもかくにも働いてここまでもって来た。
(暗) negative の面――しかし予期した程には復興しない。
その原因
思うように働けない事情
衣食住の不足
施設の荒廃
労働関係の不完全
労資共に経験不足
共産党の問題
政党と労働組合――組織の自主性――社会主義の問題――歴史の動き
イギリスの戦後復興と労働問題
① 労資対等の協力態勢
② 社会保障
③ 重要産業の国営
○特に経営者への話題
（一） 労働関係を人間の関係 human relation として綜合的に研究せよ 人性の研究 労働組合（一般的に，特殊的に）の研究
（二） 労働協約――初期の協約と共産党
詳細に具体的に
紛争処理手続と仲裁
（三） 世界の大勢は社会主義の方向に向って動いている
（四） 組合運動は経営者の態度と相対的 似たもの夫婦
○労働組合の人々への話題
① 組合人一般組合生活の経験なし
そのため他人のいうことに動かされ易い
○歴史を学べ――そして自ら考えよ
○復興問題――生産 cost の問題――貿易 日本の場合これを考えずに復興はない
企業整備の問題 実質賃銀(75.9%)
② 共産党の問題 労働組合と政党の関係
アメリカ組合の考え方
共産主義と自由の問題
③ 企業単位の組む愛想子規の長所と危険性
○御用組合化する危険（経営参加と経営秩序）
union shop の問題――反って分裂と対立をひき起す
○適任者は役員になりたがらない――役員になることは出世の妨げとなる，しかも役員そのものとして他に出世の道なし
④ 役員が多過ぎる
その地位が安定していない
しかも役員のみの組合運動になり易い，一般組合員に組合意識が足りない
⑤ 組合運動の苦労を知らない組合幹部
もっと組合員一人々々の世話をせよ―Shop Steward の問題 さもないと足元からくずれるおそれあり
⑥ 団体交渉
多数交渉の弊害
◎幹部に交渉技術の余地を与へよ
午前中輪西工場見学，工場幹部と日鋼，函館ドックの人々と午餐を共にし後懇談。
３時より再び工場にゆき組合の人々に労働問題につき講演。
講演要旨 ①復興と労働問題，②組合運動と社会主義，③現在の組合の弱点等，講演後質問あり，共産党に関する問答をする。
５時過ぎ自動車に送られて登別温泉，第一新井旅館に投宿。規模大きい宿屋なるに驚く。夕食を加藤，星加，菊川の諸氏と共にする。晩く館俊三氏挨拶に来る。
苫小牧にて講演予定
労働組合の力
①数 現在の「数」の反省――戦前組合の少数なりし理由――組合員の利益を考
えよ――ユニオン・ショップ――check of――組合員一人一人の把握
②結果 ユニオン・ショップ――政治的意見のための分裂
――妥協（大同団結）――会計――リーダーシップ
③社会的信頼 デモクラシー――社会での力は
信頼から来る――暴力の問題
札幌公開講演要旨
敗戦後の今日われわれが全体として戦前程度の生活水準を維持し得ないのは問題ない（目下実質賃銀は 75.9 パーセント）
しかしこの情勢の下で皆喜んで国家再建のために働くためには条件がある
＜社会政策による平等の保障――社会保障の問題
＜最小限度の労働条件の確保
この基礎の上に労資協力態勢の確立
６月３０日（金）
快晴風涼５時起床，食後野口氏と地獄谷から大湯沼へと散歩。１０時から国鉄の代議員会を見学，北海道の労働部長と昼食を共にした後，７時まで会議を傍聴。
朝からの議題は労働協約と規約改正，後者は終にお流れになったが大体において準備不足，これだけの大問題を僅かの会期中に片付けようというのが無理なり。
会議は代議員４００余，随分乱雑なれども沢田君の議長振りは大によろしい。全体としてもまだよくここまで育ったものだと思う。
７月１日（土）
改正。竹内，三宅正六。９時５２分登別発の列車にて苫小牧にゆく。１１時着。
会社のクラブに迎えられて小憩雑談の後昼飯。午後工場見学の後労働会館にて組合幹部と懇談の後，講演。
４時半より工場の厚意にて支笏湖に自動車でゆく。ホテルに一泊。
苫小牧製紙常務取締役工場長 江田信二郎，勤労部長 関口清
７月２日（日）
薄雲。５時一同とモーターボートにて鱒釣りにゆく。総計１９匹内自分３匹。８時頃ホテルに帰り，午前中は休息。
１時２４分千歳から汽車にて札幌。北炭 Club の世話になる。
札幌公開講演予定（７月３日公会堂にて）
◎一 われわれ日本人は他力本願を捨て，自立の覚悟を立てざるべからず
二 国家再建は労働の成果を蓄積するようによってのみ可能
労働と節約による蓄積
◎この問題を解決するについての労働組合の責任，しかもその責任は労働組合が十分強力であるによってのみことを果たし得る。
三 労働問題の解決
現在日本の能労苦１見合いは十分に協力になりや
△労働組合の力はどうして出来るか。
数と結果
社会的信頼＜経営者
社会全体
（一）労働組合が最大限まで強力になると実際にどういうことになるか
最大限どの経営参加
イギリスの現状
スウェーデンの現状
（二）社会主義化による労働問題の解決
①最大限度の労働条件
②社会保障
③完全雇用
これ等の諸条件を基礎として労資互に相手の立場を認め合いながら強力する
（三）日本の復興問題
貿易の問題
デンマークの問題
７月３日（月）
朝雲，午後晴れて冷風強し。
午前道立の工場試験場と農業試験場（桑山覚）とを見る。前者がほとんどみるべきものなかりしに反し後者は流石に面白いものが多い
専売局にて午餐をとりたる後１時から３時まで公会堂にて公開講演をする（専売公社札幌地方局長有村国秀）。夕方北海道配電の山田社長に楽々園にて御馳走になる。
７月４日（火)
快晴風涼し。ただし土地の人は今日は近頃最も暑い日なりと言う。朝，自動車にて小樽にゆき市役所を訪ね，港を見た後，鉄道の石炭積込施設と作業を見学する。
午餐は銀鱗荘にて御馳走になる。天下無類の景勝なり（小樽市助役永山政能）。１時，札幌に帰り労働会館にて労働委員会関係の人を中心とした五六十名の聴衆に講演。公園内西の宮にて夕食の御馳走になった後，狸小路を散歩して帰る。苫小牧製紙札幌事務所長吉井襄（北一条西一丁目）
７月５日（水）
快晴，昨日より暑い感じ。朝，バターの雪印，ビールの会社を見学した後，１０時半から労働会館にて労働組合の人々３０人ほどに講演。
午後公労法関係の人々と懇談した後，苫小牧の三宅君の案内にて常山渓の王友荘にゆく。静かで愉快な晩餐であった。
７月６日（木）
６時４５分の電車で常山渓を出発。苫小牧の事務所にて小憩の後，８時５０分発の急行にて札幌をたつ。社内は暑かったが，静かに読書することができた。４時函館にて乗船，９時青森。海上静穏，青森は小雨，１０時青森発。
７月７日（金）
車内よく眠る。５時頃目醒める。車内暑気甚だし。寒暖計３３度位。教員組む藍の小笠原君と語る。参議院選挙と組合の話をする。
終日 Dankert, Coontemporary Unions を読み。１２時５０分上野着，仲裁委員会の安田君迎えに来てくれる。２時頃帰宅，暑気甚だし。
７月８日（土）
昨日同様の暑気，５時起床，大根を間引く。
終日ボーエンのホームズ物語を読む。
北海道にて世話になった人々に手紙を書く。南部農夫治，尾谷正二，三宅正六等々。長瀬秀吉（中野区江古田４ノ１９０７電（３８）２２１９）より都労委隠退の挨拶あり。返事を出す。 Columbia University Press から出版の件断状来る。５月９日附け書面を出したものが到着していないらしい。
労働組合運動史寄贈先
○組合役員の給料
組合自立性確立の問題の基礎として
戦前の boss 争議に関聯した収入（西尾末広の話）
政党から金を貰うと自立性を喪失する
組合はよろしく少数のものに高級を払うと共にその地位を保持すべきだ
高級をめぐっての内部抗争のおそれ
AFLはCIOよりも一般的に高級
business unionism の問題， expense の問題
peterson, p. 79
dankert P.226- Wuestion of union salaries
P.423- Union leadership
○アメリカ鉄道労働組合と鉄道労組法
Arbitration Act, 1888
Erdman Act, 1898
voluntary arbitration tripartite panel mediation
(for the first time)
attempt to outlaw yellow-dog contracts
Adair v. U.S., 208 U.S.161(1908)
Newland Act, 1913
Erch-Cummins Act
(Transportation Act), 1920
Railway Labor Act, 1926
Amendment of 1934
Railroad Retirement Act
Miller American Labor and the Government pp.
396-〔欄外記入〕
７月９日（日）
終日暑いので家に居る。北海道で世話になった人々に礼状を書く。
７月１０日（月）
午前中小雨，雲って多少涼しくなる。
９時，十条製紙社長外２氏，斡旋の件につき相談に来る（社長西済，取締役松下善太郎，勤労部長田中慎一郎）。
１０時半出て研究所〔政治経済研究所〕にゆく。色々と用事がたまって居て忙しい。５時半まで次から次えと来客あり。５時半から小林君等と林野庁の招待にゆく。白金今里町の藤原銀次郎邸の一部，立派な建物なり。
７月１１日（火）
再び快晴暑し。１０時頃出て研究所にゆく。 Columbia の Wiggins, Chicago の Rheinstein，英大使館の Mathews 諸氏に手紙を書く。
正午頃布熊由之来訪。東京商工会議所の講演速記を見る。法文社の寺沢氏六法全書をくれる。松本東作君，松本清一（神岡鉱業），田島湖（三井鉱山）を同伴し来訪。
◎民科法律部会編，法社会学の諸問題
早くから終始通じて法社会学に感心をもつ私としては，戦後わが国の学界にこの学問に関する感心が高まって来つつあることに興味をもつ。ただ今まで忙しかったため学会に列席したり，文献を読む暇がなかったため，実際学界でどんなことが問題にされつつあるかを知る機会をもたなかった。
その意味でこの本は私にとって非常に面白い。
一番有益なのは，唄氏によって書かれたという「法社会学文献解題ならびに目録」である。なお発達途上にあるこの学問の発展のために非常に役立つと思う。目録は余りに網羅的であり過ぎるが，これは法社会学の概念が確立していない今日としてはやむを得ないことでもあるし，また実用的にもこの方が便宜である。
その他の論文を読んで感じたこと
（１）法社会学の概念について定説がないこと 社会学なりや否や 理論法学と実用法学
（２）慣行調査の法社会学的価値について議論のあること dataを豊富にすることを怠ってはならない
（３）法社会学が社会科学であるか―保守的か進歩的か
Lebendes Rechi の存在形式に関する理解が不十分
裁判規範と行為規範の問題
制定法と社会との関係
法解釈学は法治主義を基本的政治原理とする国はどこにもある
司法の統一の要請―Soviet にもあるべきだ
Holmes の場合―歴史の動きを洞察して法創造
それでも在来の法体系との調和を無視し得ないところに法解釈学の限界がある
一の社会を規律し成り立たしめている法をその社会の関係において理解
「Bourgeois 社会の法解釈学は Bourgeois 社会に奉仕し Soviet の法解釈学は･･････」
しかし解釈学としては一貫したものがある
しかもその中に進歩的創成的なものと保守的なものとがある
７月１２日（水）
晴雲相半ばし夕刻夕立あり。午後出かけて仲裁調停合同委員会に出席。国鉄名古屋の件は幸に藤林の骨折りにて解決した様子。しかしこの組合については今後とも交渉単位の問題につき問題を起こすおそれ多きにつき事務所をしてこの点につき注意せしむることとした。
保利新労働大臣挨拶に来る。賀来労政局長もジュネーブより昨夜帰りたりとて顔を出す。
夕食後少々頭痛するにつき早く寝る。
７月１３日（木）
昨日に似た天気。午後から研究所にゆき千代田銀行労働組合委員長とあい２１日に講演を引受ける。中央公論の島中氏来る。北村治久氏労働運動史をもって来る。
一旦帰宅夕食後９時家を出て１０時半の汽車にて大阪に立つ。汽車は田端平四郎氏と一所なり。車中比較的涼しかりしもよくねむられず。
７月１４日（金）
９時半武田製薬の人々に迎えられて大阪駅着。同社堀川寮に入りたる後，工場見学，午後４時から組合幹部と懇談する。夕方会社組合双方の人々と堀川寮にて晩餐の後旅館金森にゆく。
比較的涼しくよくねる。
（一）労資の関係は人間と人間との関係
無論利益打算に基く結合関係である。 gesellschaftlich 的に give & take の原理によりお互に対手の立場を尊重し会いながら自己の利益を守る考
（二）団体交渉
Human relation だということは決して何でもかも理屈を抜きにして妥協しろということではない
主張すべきことは飽くまでも主張する
相手のいうことは飽くまできく，そして理解に力める
相互理解の努力が和協の基礎である
（三）労働協約
なくてすめばこれにこしたことはない
しかし，政治が立憲政治的に，法律が成文法主義に進んだように，お互いの権利義務を明文的に規定して争を防ぐことは人間文化の進歩である
（四）紛争を力によって解決せずに極力理性に訴えて解決するのは人間文化の進歩である
協約と紛争処理手続と仲裁
（五）組合関係と職務関係を混同してはならない
組合が組合として経営者との関係について，労働者の立場を主張するのはよろしいが，職場の規律を組合の力で直接みだしてはならない
主張すべきことあらば規定の道（苦情処理，経営協議会）をとれ
７月１５日（土）
晴，むし暑し。１０時半武田本店にゆき会社側より経理事情，組合関係の話をきく。
A
One にて午餐後本店の人々に講演。
４時半から工場にゆき組合の人々に講演，増屋にて晩餐，９時出発帰京の途につく。
７月１６日（日）
７時半東京着。車内は冷房のため涼しくよく眠ることができた。帰宅は９時前。
７月１７日（月）
晴，むし暑し。１０時半頃家を出て研究所にゆく。
研究所にたづねて来た人々――
労働文化社 雑誌を出すとのこと，断わる。
法律時報桑江氏。
新国君来り次期仲裁委員会に協力する意志ありやにつき内意をききに来た。国鉄の労資関係をもつと合理化するにつき話をする意思あるも，必ずしも仲裁委員を引受ける意思なしと答えた。
松崎，飼手両氏来訪，松崎氏渡米につき調査事項に関し色々と話をした。
中島氏来り，十条製紙の争議大体先日の勧告を中心として片付きたる由話しあり。
◎２１日 千代田銀行労組のための講演要旨
○いま日本の労組は一般に遠近法を忘れている
世界史が社会主義の方向に向っていることは認める。Soviet の労組が一般の反対宣伝以上に自由をもっていることも認める。
しかし，そういう状態に達するためには一定の過程を必要とする。
その過程を考えるについては
一般的に 及び
日本の実情について具体的に
考えるべきことがある
その意味で私は今の日本の労組の人々に組合運動史の研究をおすすめしたい
組合の人々はもっと自分の足下を見なければならない
役員だけ急進し過ぎると rank and file はついて来ることができず
不必要に弾圧を呼び起して反って運動全体の進展を妨げる
○white collar が組合運動にまき込まれる経過
食えないこと
社会保障制度の関係
不明朗人事の問題
◎２５日最高裁判所講習要旨
アメリカ労働立法史
現状 連邦会
労働関係法
ノオリス・ガルデイヤ法（１９３２）
タフト・ハートレー法
鉄道労働法
海員労働関係 Rauschenbush & Stein 〔Law cases
of marerials, 1941〕 p. 254―
Marchant Marine Act, 1936
労働者保護法
Walsh-Healy Act
Fair Labor Standards Act
社会保障法
Social Security Act
Railroad Retirement Act, 1935
Railroad Unemployment Insurance Act, 1938
労働法と憲法上の制約
１９２９の Depression の影響（先駆者としての Holmes, Brandeis, Cardozo の死）
７月１８日（火）
晴れ，暑気甚し。午後から研究所にゆく。警察大学教授宍戸基男氏講演を頼みに来るも暑気の折柄故断わる。労働運動史の寄贈分に署名する。
"７月１９日（水）
晴，暑し。33°8なりし由，終日家居，読書。
○新聞紙によると，浅井人事院総裁は昨日司令部の公務員制度課長を訪問した結果，給与改訂の勧告を中止するに至ったとのことであるが，こういうことをする位ならば，人事院をやめて仕舞ってはどうか。
浅井氏は一度国会で勧告提出のことを言明した〔欄外〕。
もともと人事院は政治にかかわらず純合理的な立場から仕事をするのを立前とする。だから給与改訂の勧告も純技術的の立場からすればいいので，それを採用するや否やは政府と国会が決定すればいい。
政府が，もしも勧告に従い得ないというのであれば，堂々とその理由を公表すればいいし，国会もまた財政との関係上勧告に従い得るや否やを同道と論議すればよい。そうすれば，狩りに勧告が容れられなくとも，公務員は納得する。
然るに政府がそういう民主的な手続をとることをきらって勧告の提出を阻止しようとするから事がすべて不公明になる。無論野党が人事院の勧告を無闇に政治的に利用しようとするのもよろしくいない。勧告の実行が可能なる所以をもっと具体的につきつめて議論をすべきである。
吉田総理や自由党が軽々しく給与改訂を希望するようなことをいいながら結局司令部の意見を理由として人事院の勧告を阻止しようとするのもよろしくない。
財政全体が司令部によって抑えられていることは初めから解っているのだから，軽々しく改訂を希望するようなことをいうことそれ自身が間違いである。そういう気休めをいっても決して政治的責任を免れ得るものでないことを知らねばならない。
人事院をむしろやめては如何。
この制度は公務員組合の行き過ぎに対する対策として設けられたものであるが，そのため制度そのものにも行き過ぎがあるように思う。殊に政府と国会（野党をも含めて）が上述のように非民主的である以上，人事院が純技術的立場から勧告するという制度そのものにも無理があるように思う。
苦情処理の実情如何。公務員一般は多くの信頼をかけていないのが実情ではないか。
イギリスの Civil Service に関する joint council, Civil Service Arbitration
Tribunal 等を参考にして新に考え直すべきである。
○鉱山経営者連盟は１８日の第１８回総会で解決に決定，労組側の全鉱連は２５，６日の中央執行委員会にて対策を講ずる由（読売）
○景気問題について国民全体の purchasing power のことをもっと考える必要があるのではないか―資本蓄積との関係を考慮する要あり。
Turner-Samueles
Rottschaeffer p, 2
○午前中 Henry Rottchaeffer, The Constitution & Cocio-economic Change,
1948 を読む。（感想を以下に記す）
法社会学的に考えてアメリカの憲法史程興味のあるものはない
日本の法社会学者はもっと Data を集めることに力をいれよ
７月２０日（木）
○京都地方（平峰裁判長），京都府立医大学生６名の放学処分を不当とする旨の裁決を為したる由（朝日）。珍らしき事件なり。法律上あり得ることなれども，今後問題となるべし。事件は学生の教授会妨害なり。事実関係を詳しく調べる必要があるように思う。
○午後，川島武宣氏と会議の予定話題
訪ねた大学と学者――その感想
集めて来た本
法学界の一般的傾向（一般的傾向を捕まえることの困難）
1929 Depression の影響
Gurvich,born Nov. 2. 1894
in
Timascheff
Vinogradoff
Max
M. Laserson, Russian Sociology, p. 674-
高橋方雄（宇都宮氏小幡町２６３５）に返事を出す（土曜日――労働法）。栗山茂（渋谷区代々木大山町１０６０）に水泳の切符を送る。
夕刻虎の門亀清にて法律時報の人々と共に新帰朝の川島武宣氏と座談会を行う。帰途気分わるく，吐く。
○千葉地労委の人研究所に来る。組合分裂と union shop の問題につき質問。込み合い分裂のために失業者を出してはならない。問題は一面CPが分裂を誘致したことにあるが，さればとて分裂から失職へ導くことは邪道だ。
○アメリカの労働（案）
労働組合と労働法
邦語参考書，松井七郎「米国の労働運動」 運輸省，米国鉄道における賃銀と労働問題
はしがき
組合運動小史
AFLとCIO
全国組合
鉄道労働組合
Local
組合の事業
組合と政治
労働立法概説――歴史
労働関係法
社会保障
労働保護法
７月２１日（金）
不相変晴れて暑い。午後出て研究所にゆき３時から千代田銀行従業員組合のために講演。
夕方より刑務協会にてOSの会あり。久し振りに穂積先生，馬島ドクトル等に会う。
７月２２日（土）
不相変の暑さ。終日家居，読書に時を過ごす。
冬子朝箱根にゆき，夕刻泰子帰来。
◎労働争議と violence
経営者側の violence Millis p.95-, p. 124
Lafollette
Committee p.100
７月２３日（日）
終日家屋，暑気甚だし。読書も余りはかどらず。
７月２４日（月）
早朝小雨あり。朝顔第一花を開く。
◎午後土地調査会総務部会議の予定。
農業水利――発電水力――水道――漁業――流木――航行――pollution――防水治水砂防
○地下水――温泉
工業公害（中央官庁の対策と地方自治体）
静岡行きの約束をする。日教組，（８月７日午後出発）８日沼ズ，９日掛川，１０日磐田市（静岡市追手町２５城内，県教組 松永忠二）
△明日最高裁判所での講演予定
◎アメリカの労働立法を理解するための基礎知識として，――基本的にはCommon lawの知識われわれは
（一）労働立法に対する憲法上の制約
（二）労働立法の背景をなしている社会事情殊に労働関係の特殊性を知る必要がある。
（第一）憲法上の制約――Judicoal Supremacy の問題
（一）Federal と State legislation
Interstate Commerce
Taxing pow. public power
（二）個人的自由の保護規定との関係
Due process of law (V Amendment)
Equel protection of law (XIV Amendment)
Involuntary servitude (XIII Amendment)
Freedom of Speech -Peaceful picketing
これ等の制約が労働立法に与えている影響
（１）アメリカの労働法の一部に著しい後進性を残している
例えば child labor の問題（Rauschenbuch P. 385-)
（２）憲法に適合することを目的とした特殊の立法技術
child labor と Interstate Commerce
（３）Federal law と State law との複雑な関係
憲法解釈の変遷 （Rottschaeffer p. 44-）
１９１９ Depression 及び War の影響
是以前の情況
New Deal 以後
Federal Power の拡大――Interstate Commerce
State police Power が Congress によって拡大
Protection of Personal and Preperty rights
（第二）労働事情の特殊性の影響
アメリカの労働関係の特色は violence が永く続いたことにある（Laski,American Democracy）
◎経営者の反組合態度
（１）police と経営者の violence, union 破壊工作
（２）Injunction
◎裁判所の Anti-labor 的態度
◎労働関係法
NRA 1933, NLRA 1935 (Wagner Act) NLMA 1947 (Taft-Hartley)
◎労働委員会制度と裁判所の問題
７月２６日（水）
暑気依然たり。
７月２７日（木）
昨日に同じ。午後より雲って蒸暑し。２日間終日在宅，休息する。本を読んだり，昼寝をしたりしながら。
夕刻雨来る。泰子の兄弟夫婦等来り晩餐のあつまりをする。
７月２８日（金）
雲，時々雨，蒸暑し。１０時頃出て研究所にゆく。
電話通信省大臣官房人事部管理課長本多元吉氏来訪。８月１２日午前１０時よりの講演を引受ける。
（講演題目心積り「公務員の労働関係を中心として」）
７月２９日（土）
時々大雨，終日家居。Civil Service Assembly の Employee relation in the Public Service を読む。公務員労働関係の研究上極めて有益なり。午後Chicago
の Rheinstein 教授より先日の依頼に対する返事来る。
７月３０日（日）
雨晴れて蒸暑し。
永井亨氏（杉並区井荻町３の４３）
７月３１日（月）
午頃より研究所にゆく。
鉄鋼連盟の Steel 争議調査委員会報告書翻訳に序文をかく約束をする。
アメリカの労働
はしがき 一 旅程の大体と旅行の目的
二 旅行の成果と補足的研究
これは体系的の著作ではない。
（取扱う問題）
組合運動史（参考書のことをかく）
negroes の問題で Atlanta で聞いた話から書き起こす
Shop stuward
Business agent
CIO とAFL
鉄道労働組合
Labor injunction 藤堂と裁判
NLRB
組合の役員――給料――bureaucracy の問題
共産主義者の問題――１９世紀終わりからの問題をかく
連邦調停斡旋局
労働省 労働行政機構
労働立法概説
労働経済事情（Gift of Freedom によって書く）
交渉単位の問題 Industry with
negociation 問題
公務員組合（特にTVA） Civil Service
Assembly
労働組合の政治運動
仲裁
女子労働
幼年労働
アメリカの労働
労働教育の資料として労働組合，労働関係及び労働行政（労働立法）の概要を書く予定
◎黒人（若しくは人種問題）に対する差別待遇
○兼子一，アメリカの最近の凡例について興味ある記事をかいている法曹時報二－八ー六〇
○Peterson, American Labor
Unions
○松井七郎２６頁以下 人種的多数性と労働組合の問題
労働読本
一 労働問題の帰趨が一国の荒廃を決すること
二 労働問題解決の鍵を握るものは誰か
◎労働読本
（労働組合読本）又は労働関係講和
（労働教育の資料として一般向読物にする予定）
法社会学序説
法哲学との関係
法社会学を以って置き換えようとする考（穂積陳重）
８月１日（火）
不相変蒸暑く，時々雨降る。午後から土地制度調査の水部会に出席。予算をめぐる小役人の細かい取引に感心する。
８月２日（水）
昨日に同じ天気なれども多少涼しい。１０時頃出て研究所にゆく。
２時から公労法関係の懸賞論文の件にて労働省にゆきたるも委員出席不良にて流会。不都合千万なり。
３時から安本長官官邸に土地制度の総会に出る。５時半より市政会館にて著作権協議会の会合あり，９時過ぎ散会。雨ぬれて帰る。
８月４日（金）
冬子，子供等，午頃に箱根から帰宅。夕刻から日米水泳を見にゆく。日本チームの力全体として何となく弱い。
８月５日（土）
終日法律時報の原稿を書き夕方から成田君の自動車にて水泳を見にゆく。日本チーム敗色濃し。
８月６日（日）
晴れたども尚時々小雨，暑くなる。夕方より水泳を見る。大敗なり。選手の力量は紙一重の差なれども大事な訓練が足らない。殊に肩の固いことが一般に目につく。
荒畑寒村氏（杉並区和田本町１１０６）より礼状来る。
８月７日（月）
９時半出て研究所にゆく。日立の人着たり１７日８日講演にゆく約束をする。
３時３５分の電車にて沼津にゆく。６時１０分沼津着。
◎静岡県教員組合のための講演予定
（教員組合にとっての当面の問題）
①学校単位の組合組織を改めて個人組織に変えること
地方的に支部組織を作る
学校支部は作らないこと
学校長も加入し得る
組合にはそれぞれ個性があって，組織，事業もそれぞれの個性に従って考えられる必要がある。
交渉の相手は
中央は文部大臣
地方は教育委員会
②地方公務員法改正に関する問題
苦情処理手続の確立に努力すべし
③組合の必要
組合の歴史
（人間としての dignity の問題）
現在日本の多くの組合がやっているようなことを続けてゆくと組合員は減る。
④労働組合と政治
ドイツ，ロシア的傾向 インテリの組合指導
米英的傾向
共産主義社会主義の論争はドイツ，ロシア的傾向の現われである。
組合の分裂は政治偏重から来る
⑤労働組合と反戦運動
組合は国際情勢に右顧左べんして軽挙妄動すべきではない
第二インターナショナル――第三インタの反戦的傾向（ロシア革命）――満州
事変と日本共産党
総力戦（ナチ，フアショ形式，英米式，ソヴィエト式）
第二次世界大戦には反戦運動なし
世界労連と反戦的傾向
その意味（反戦を通して共産主義的滲透を図る）
自由労連の問題
現在の平和運動の意味
○共産党の場合と社会党の場合
◎硫安工業と硫労連の関係
appropriate unit の問題 戦時統制と交渉単位の全国化
自由取引えの復帰とその影響
交渉単位の資本家及組合にとっての意味
◎アメリカの公務員組合（Employee relation in the Public Service を車中に
読む）
三種に分類
（１）民間産業と政府事業とに共通している occupation 又は industry における組合
（例） AFLの Building &
Construction
Metal Trades }Departments
８月８日（火）
半晴小雲，蒸暑し。１０時から商工会議所にて講演，聴衆予定の如く集まらず約２０名の組合幹部と座談会をした。組合と政治，反戦運動，組合組織の問題につき話する。
１時３３分沼津発，３等車にてノロノロと掛川駅についたのは４時半。富田旅館に泊る。夕食後一寸散歩，予想以上の田舎町なり。
８月９日（水）
晴れて風多少あり。昨日より涼しい。
今日講演の話題
まず労働問題のABCから始める
（２・１ストの晩の吉田首相との対談の想出）
第一の問題は如何にせばすべての国民に心よく最大の能率を挙げて働いて貰うことができるか
イギリス労働党の現にやっていることを例にして話をする
現実問題として
（１）現在相当多数の人々は働きたくも働くことができない
失業問題――完全雇用
（２）現に職についている人々も中々満足して働いていない
賃金その他労働条件えの不満
その他労働関係に関する各種の苦情
（３）負傷疾病老癈等のため働けなくなった場合，死亡後に食えない妻子を残すことの不安，これらの不安に対して予め救済の道を建て権利として救済を要求し得るようにして置くこと
◎これ等の問題にたいして
（１）資本主義は解決を与えることができないか
fascio 的解決――ナチスの例
アメリカの例
（２）社会主義的解決
イギリス社会主義とソヴイエト共産主義
わが国現在の具体的問題としてこれ等の問題の解決策を考えるについて考慮に入れるべき具体的事情
人口過剰にして天然資源に乏しいこと
技術の進歩と工業化している現実
従って
①原料の輸入→加工――優秀にして低廉な商品の輸出→食料その他消費品の輸入→文化の向上
②同時に最小限度の食糧自給――国土開発
③世界経済との調和的連関
これ等の問題を解決できない限り
アメリカその他の資本主義諸国に属しても
ソヴイエト共産主義国に属しても
結局三流四流の国にしかなれない
１０時頃から西高等学校（昔の掛川中学）に講堂にて講演。
話題は予定したものよりはむしろ労組の実際問題を歴史的回顧に即して説明。午後も引続き質問座談会。
棒村専一君近所の村にて村長をしているとのことにて尋ねて来る。手製の茶一鑵くれる。
４時４０分の列車にて磐田市にゆく。これは中泉と見付の合併した市にて，新井茂雄と牧野の出身地なり。迎陽館という古い宿に泊る。
８月１０日（木）
今日の演題予定
歴史を顧みると，労働組合運動はそれぞれの国の政治経済事情に支配されて発展もし又衰えもしたことが見出される。同時に又反対に労働組合運動の如何がその国の政治経済の消長ひいては国の運命におおきな影響を与えたことを見出す。
そのことを考えると，われわれは現在わが国の組合運動が今後如何に発展するかについて大きな関心をもたざるを得ない。
△わが国が，英米流のデモクラシー国
ソヴィエト式の共産主義国家又は再びファッショ的の国になるか
を決定するものは組合運動である。
△否わが国が改めて世界一流の国として復興するか，又は三流四流の国として衰えてゆくかも，この運動の如何によってきまるのだと思う。
何となれば，組合運動の如何（換言すれば，わが国の労働問題を如何に解決するか）は国民のすべてが総力を挙げて働き，労働の成果を積み重ねて文化水準を高めてゆくことに貢献するや否やにかかっているからである。
その意味で，現在わが国のこと運動を動かしている人々の責任は重い。またわが国今後のことを憂う人々はもっとこの運動に関心をもたなければならない。
講演後１時バスにて見付を出発。２時４分浜松発の特急にて帰京，東京着６時，帰宅７時５分。
８月１１日（金）
午後新国，中島両君来訪。自動車にて共に出て夕刻，公共企業体関係の懸賞論文委員会に出席（丸ノ内内常盤家）８時頃帰宅。
夕刻１時大雨。幸いにぬれずにすむ。
８月１２日（土）
電通省の講演予定
（題目）アメリカ公務員の労働組合とその労働関係
一 公務員組合の組織形態――三種
①官民共通の craft union 組織
②一定の官業に従事する従業員のみにて組織する組合
③General Union of
Government Employees
National
Federation of Federal Employees
American
Federation of Goverment Employees
United Federal
Works of American
二 労働関係
①第一種は民間の労働関係と違わない
団体交渉 労働協約 ストライキ
②第二種 Post, Teacher, Fireman
③第三種 }Post は特に組織率が高い
三 公務員労働関係に関する議論
迎えに来てくれた自動車にて電通省の講演にゆく。講演後中央労働学園の永井亨氏と会談。
研究所により横山氏に会って帰る。栃木県教組の恩田芳衛氏に会い，２６日（土）宇都宮にゆく約束をする。
帰宅後，芦田均君よりの電話，雑誌東京だよりのために水泳の話をかけとの注文。引受ける。
８月１３日（日）
晴れて終日暑い。終日家居，無事。
８月１４日（月）
朝霧にて涼しい。
○今日の朝日に，竹細工，ししゅう，編物，ミシン，造花等輸出用加工品の内職工賃に関する当初がでていた。戦前と同じことが又再生した訳だ。
○三鷹事件の一審判決に対する批判がしきりに新聞にでる。竹内の単独犯行だという裁判所の判断に何となく世間が納得しない証拠だ。
こういう事件を考えると，juryなしに新刑訴のような証拠制度をとったところに無理があるように思う。しかし又三鷹事件のような事件を jury で解決することは日本では六かしいのではないかと思われる。研究を要する問題だ。
１０時頃でて研究所にゆく。訪客例によって多し。５時頃つかれて帰る。早くねる。
巖夫と母の命日にて客多し。
８月１５日（火）
○アメリカ下院の Lobbing 調査特別委員会 Chairman Frank Buchanan 談として４月８日 Illinois
Federation of Labor の Week News Letters の訳すと“In 1949, business reported that it spent $8,500,000 to influence legislation before
Congress and labor spent & 500,000.” $ 17-$ 1 の比率
○朝日夕刊，アメリカの国籍法改正の両院協議会通過を報ず。１９２４年以来米国に定住したものの市民権獲得に付いての人種的差別の撤廃
○アメリカの仲裁に関する論文
Gregory & Orlikoff, Enforcement of labor arbitration agreement
University of Chicago Law Review Vol. 17-N. 2.
８月１６日（水）
朝塚原さんに診察して貰う。土曜日に堀内博士の診察を受けるよう紹介状を貰う。１１時半から工業倶楽部にて堀木，千葉，三木，浅尾，林正夫等の諸氏に会い，労働問題，朝鮮問題等につき懇談。
２時より土地調査委員会水部会（人事院ビル５階会議室），水調査の予算案に関する委員〔報告〕をきく。
Prof. Max Rheinstein より返事来る。芝の桂にて電通次官靱勉君の招待を受ける。
８月１７日（木）
晴。日立製作所の罍秀雄君に案内されて９時１５分上野発小山廻り水戸線を通って日立にゆく。常磐線水害のためのまわり路なり。２時２０分車中混み，暑し。
３時から座談。４時半から学校講堂にて講演後，自動車にて大甕の寮にとまる。昔のゴルフクラブハウスにて復旧の情にたえず。
８月１８日（金）
今日も快晴。夜涼しく〔前夜は〕１０時頃からよくねる。６時頃起る。日の出を松の枝越しに見る。
◎多賀工場にて公園の予定
（１）労資関係も結局 Human relation であること
利益打算的――肯定的――結合関係
親切と相互理解
（２）労働協約
相互理解を基礎とした労働関係の成文的規定
不文法より成文法えの進化過程と比較せよ
（３）紛争処理と仲裁
力による解決から理性による解決え
裁判制度の発達の比喩
（４）組合としての労資関係と職務関係を混同してはならない。不平苦情紛争は組合として直接経営者え
団体交渉――紛争処理――協営協議会
直接職場の規律をみだしてはならない
９時半から多賀工場にて話をした後，工場を見学。
１時１５分の列車にて帰る。常磐線開通，小貝川決かいに洪水あとを通過。約１０分間に互り万目黄化，惨状目を覆わしむるものあり。５時１５分上野着，自動車にて送って貰う。
８月１９日（土）
晴。９時出て堀内病院にて診察して貰う。直腸の故障なり。Krebs〔癌〕かも知れない。差し当たり食餌の注意を与えられ，下剤を貰う。
研究所にて一寸よって帰宅。
８月２０日（日）
時々にわか雨来る。腹工合よろしかず，終日家居，本を読む。
「教員組合の課題」を教員組合のために書き初める。
８月２１日（月）
朝小雨あり。蒸暑い風のない日。９時半家を出て研究所にゆく。
来訪者――改造記者鈴木均，毎日の多加部，牧野両君，解雇問題につき助けを求めに来る。
２時半日教組幹部約１０名（荒木前委員長以下）来訪，組合の今後の問題につき相談を受ける。
労働省労働組合課の山崎新午君，組合の福利事業協議会のことにて相談に来る。
われわれは終戦この方専ら団体交渉を通して day to day の労働条項の改善，特に賃上げに主力を集中して来た。これはインフレの昂進につれて日に日に低下する実質賃金に対処する措置として当然のことであったが，そのためわれわれは，一面政治運動を通して社会主義的基礎による社会保険の完備を促進することを軽視すると同時に，各組合内部の事業として互助共済の組織を通して組合員の間に連帯結束の精神を涵養することによって組合の基礎を固めることを忘れていた。これを英米の組合運動の実績に比べるとかくの如きは明に跛行である。われわれは今尚賃上闘争の必要を痛感する。しかし同時に在来の欠陥を補塡して，労働生活に安定を与える必要を感ずる。
８月２２日（火）
快晴にて不相変暑さ厳しい。９時半頃出て堀内さんにゆく。結局成るべく早く手術する方よろしからんとのことである。
午後研究所に斎藤鉄朗，星加要両君，国鉄の問題につき相談に来る。
◎労働組合と反戦運動
日露戦争と片山潜〔上部欄外記入〕
自由労連の決議
総評加盟の組合にとっては問題はない訳である
しかしこれだけでは問題は具体的には解決していない
国際労働運動と反戦運動
第一次大戦と第二インターナショナル
Commintern と反戦宣伝
世界労連と反戦
自由労連の成立
中村静氏に返事を出す。（西落合１－１３５）
８月２３日（水）
快晴。不相変の暑さ。終日家居して先日京都でやった座談会記事を訂正する。
冬子，塚原さんにゆき手術のことにつき相談してくる。
法律時報時評題目
三鷹事件のこと（「司法官と社会思想」（法窓雑誌））
新刑訴の矛盾
共産党事件と陪審問題についてがアメリカにも問題がある（Labor Fact Book p.86）
８月２４日（木）
９時半家を出て研究所にゆく。一昨日来やや便秘気味なりしも通便あり気持よし。
内閣統計局にて講演の予定
○外のことよりも内部のことを
内部のことというのは
労働問題を適当に解決
（１）労働関係の調整
（２）保護法規
（３）社会保障
（４）完全雇用
４時半より講演，公演中大雨至る。新宿まで自動車にて送られて帰る。
夜に入りて急に涼しくなる。落雷のため停電，早くねる。
◎労働刑法（神山瀬治著）を読みながら考えたことども
①検察権の発動が不当の干渉となる問題
軽犯罪法の問題 共犯の問題〔欄外記入〕
②労働関係について発生した行為が一般刑法に照して犯罪となる場合
軽減事由として考えるべきこと
違法性と相互性
所有権の相対性
③特殊犯罪
８月２５日（金）
涼しくなる。正午頃から出て一寸研究所により日本評論社にゆく。
川島，戒能，生方，渡辺（洋三）諸氏と法社会学の雑誌を出すことにつき相談する。８時頃帰宅，夏子等箱根から帰って来る。
８月２６日（土）
７時に出て宇都宮にゆく。東武電車の好意にて優待してくれる。根津社長杉戸まで同行。中島徹三君偶然に同車。
午後１時から弁護士会主催の講演，場所は検察庁の新しい庁舎。
ホテル栃木荘に投宿，夕食を弁護士，経営団体，地方委，日教組の人々と共にする。
８月２７日（日）
雲，小雨。９時半から日教組のために講演。
○労組にとっての当面の問題
（１）労組を守ること――労組に失望してはならない
過激な行動は fascio 的反動を誘発する（今まで労組の人々はこのことに気付かずに共産党に引ずられて来た）
（２）朝鮮問題と労組
自由労連の決議
（自由党と社会党との政治論争に引き入れられるな）
（３）労組と政治
政治に感心をもつのはよいが
労組は政党ではない
（４）社会主義の問題
イギリス労働党の成果を見よ
自由を守れ
民主々義は反映をとりもどすことによってのみ可能（自由かパンか――Roosvelt の炉辺談話）
午後１時都営運動場にゆき水泳場に勤労者水泳大会を見る。松沢に会う。
１時５５分西川田駅から東武にのり６時帰宅。
８月２８日（月）
１０時半出て研究所にゆく。東武と電気関係労働組合の講演を引受ける。日経連の座談会は３０日午後とのこと。
８月２９日（火）
朝は寒いほど涼しい。終日家居。法律時報の原稿を書く。時々小雨，雨間庭に出てラッキョを２さく植える。
夕方中労委から米国で貰った書類の残部がとどく。
８月３０日（水）
朝，国立病院にて大槻博士に見て貰う。午後，日経連の座談会に出る。其夕食の時雨亭，もと誰れの屋敷にや立派な家なり。
８月３１日（木）
終日家居。
９月１日（金）
１１時から東武本社にて講演。静養軒にて午餐を受けてから帰る。海野普吉氏に会う。
９月２日（土）
午後光生命にて講演。５時から電工労組にて講演。講演後高野実氏に会う。
９月３日（日）
風強く蒸暑し。関西台風のよし。終日家居。
○石炭協会原稿要旨
団体交渉の規模について
産業別全国組織と交渉規模拡大の傾向 England, Sweden
アメリカはまだ大したことなし
経営者にとってに不利益
Peterson p.191-
Barou p. 113
J. Robbins, The government of
Labor relation in Sweden, 1942
双方の association が斗争的から協力的に
その基礎の上に自由主義的計画経済が可能である（Robbins, P. 101）
９月４日（月）
昨夜風強く停電につき早く寝る。下痢気味にて体だるし。暑気強き故終日家居。
田畑政治君果物をもって見舞に来てくれる。寝ていて会わず。
９月５日（火）
晴。午前中石炭協会の原稿を書く（「団体交渉の規模について」）
１時頃出て研究所にゆき，３時頃国立病院に入院。病室は清潔にて涼しい。
９月６日（水）
曇。レントゲンをとったり，その他色々の準備作業をやる。
見舞人，白石多士良夫妻，藤田明，渡部さん，谷さん。
９月７日（木）
曇。むし暑し。今日も色々と手術のための準備手当をする。
食慾あれども通じなし。下剤を飲む。夕方効果あり。
見舞客 平山復二郎，小林義雄外１名，中島，三藤
夜まで公企法の懸賞論文を読む。
９月８日（金）
半晴半曇，午後少しむし暑し。午後ボーコー検査をする。気持の悪いものだ。
見舞客 九州の舟橋君外２名，鹿内信隆君，エコールス夫人，渡部さんと共に来る。福島正夫君。
大槻来診，愈々手術の方針もきまったらしい。
懸賞論文を返えす。
９月９日（土）
終日比較的涼しい。
見舞客 東利久，石炭協会鈴木氏，日評の人々。
武田から薬品をくれた。
夕方渡部さん来る。
最 後 の 日 記
――１９５０年１１月１８日――１９５１年７月１０日
１１月１８日（土）
礼状を初めてかく。
１１月１９日（日）
晴。気分よろし。
礼状 穂積重遠様 細川嘉六（世田谷５の２８３２）
１１月２０日（月）
快晴。礼状 武田長兵衛様 白石多士良様
１１月２１日（火）
半晴。昨夜比較的よく寝たれども足がかゆいので弱る。
一昨日から昨日にかけてラチモアの「中国」を読み感心した。初めて会心の中国史に接した喜び。
礼状－郵政大臣田村文吉様 次官大野勝三様 永井亨様（
石坂泰三様（日本橋本町１の１６東芝本社）郷古潔様（
１１月２２日（水）
快晴。少々胃の具合が悪いので一日なまける。
１１月２３日（木）
晴，あたたかい日。夕刻初めて廊下を散歩する。
礼状－菊池勇 鹿内信隆 中山伊知郎 賀来才二郎 斎藤鉄郎 吉阪俊蔵
来訪－川島武宜 葉書－穂積重遠
１１月２４日（金）
小雨，曇にて薄寒い。理髪をする。気もちよきも少し寒い。午後来訪者あり。渡部一高，佐藤正義，伊藤達一
根津嘉一郎氏より見舞い品あり。夕方吸入後具合悪く早く寝る。
１１月２５日（土）
曇，今日からレントゲンを初める。１５分程下向きにねるのはつらい。
１１月２６日（日）
曇，時々晴。レントゲンの影響にや，夕方より小便の調子よろしからず。
手紙－我妻栄 林田丁助 小沢信二 千葉三郎 伊藤達一 岡本乙一 戒能通孝（
１１月２７日（月）
曇，しぐれて終日寒し。レントゲン今日は２０分なり。渡部一高氏来訪。
１１月２８日（火）
晴れなれども寒し。戒能，野村平爾両氏来訪。山村礼子夫妻。
１１月２９日（水）
朝小雪，後曇寒し。
１１月３０日（木）
朝晴午後より曇寒し。
来訪者 カマチヨ，渡部，筧干城夫，川田寿，国鉄石郷岡６２回の誕生日にて宅より赤飯を届けてくる。
葉書－福島正夫（
１２月１日（金）
終日小雨。今日から朝夕スチーム通る様子。
１２月２日（土）
晴たれども寒し。来訪者－斎藤鉄郎 福島正夫 渡部一高
１２月３日（日）
晴たれども段々に曇，寒い。重夫，竹尾さん来訪。今日は盛に散歩をする。腹工合がよくないので落付いて仕事ができない。
１２月４日（月）
快晴。 新国，林両兄来訪。夕方開成の上滝君来る。
The Trade Disputes & Trade Unions Act, 1946,
received the Royal Assemb.
on 22nd
May, 1946. It was introduced into the House of
Commons by the Minister of Labour & National Services on 23 nd January,
1946, for the purpose of repealing the Trade Disputes & Trade Unions Act,
1927 and subject to certain traditional provisions, restoring their original
form & force all enactment & rules of law amended or otherwise affected
by that Act.
１２月５日（火）
薄曇。午後三藤君，上杉君来る。
書面出す。
次
１２月６日（水）
快晴。朝日本労働研究所より見舞あり。午後法文社の寺沢氏，内閣の大野丈雄氏，
礼状－後藤清様 内藤頼博様 近藤綸二様 小町家操三様 早川勝様 佐藤正義氏 井上吾郎氏
１２月７日（木）
薄日さし比較的暖か。
礼状－土地調査準備会 小船清 奥村和夫 渡会末彦 布能由雄 開成中学（上滝汎）大野丈雄 吉田資治 全日本海員組合（陰山寿 有井澄）大久保武雄 鈴木芳衛（石炭協会） 小川三男 阪田貞俊
時評題目 教員超過労働の裁判
法政大学の場合
社会保障案と政府
政府と新労働政策
１２月８日（金）
朝晴，午後より曇。渡部一高氏，安藤敏夫氏来訪。
今日にてレントゲン１２回すむ。岩井先生来る。大槻先生も来週より出らるる由。
１２月９日（土）
快晴，暖か。朝レントゲンより帰り屋上に出て見る。暖かにて気分甚だよろし。帰れば研究所の小林君が来ていて研究所の色々の問題を話す。
午後杉枝来る。清瀬三郎，浅田斐彦両君見舞に来る。文芸春秋徳田潤君に「断腸の記」の約束をする。（銀座（５７）９３２１－３）（銀座西５－５）
１２月１０日（日）
快晴。泰子の結婚式にて冬子朝から夕方まで帰宅。
１２月１１日（月）
快晴温暖。朝レントゲンから帰ると平山復二郎が来ていた。下剤のききすぎにて一寸困る。
午後渡部一高君，日新化学社長土井正治氏，久富達夫，後藤清両君来訪。
エコールス夫人から花をくれる。夕方から腹工合よくなる。
礼状－国策パルプ（水野成夫，加藤英夫） 小室梅太郎 柴田勝 石郷岡義一 中村寅之助 白山源三郎 山本次郎
１２月１２日（火）
朝晴れ，午後半曇。レントゲン終る。昨夜の下痢，正午頃より又始る。困りものなり。
長岡半太郎先生昨日死去の由，治男氏に名刺を送る。
午後山崎匡輔君石本を見舞したるついでに立寄る。
１２月１３日（水）
朝曇り後晴れ。午後竹尾夫妻来る。礼状－安田辰馬（公共企業体仲委）今井一男 安西正道（船中労委） 山口伝 吉田喜次郎（船員委）苫小牧，本州，十条各製紙社長 松下廉蔵 長瀬秀吉
１２月１４日（木）
朝少し晴れ，段々に曇り夕刻より小雨。
見舞客－美濃部姉，川村百合子さん
１２月１５日（金）
朝快晴，風少し強い。朝学士ラガークラブと東大ラグビー部を代表して松田栄祐君（港区芝二本榎西町３）見舞に切花をもつて来てくれる。
苫小牧製紙の熊沢貞夫氏竹内君をつれて見舞に来る。
１２月１６日（土）
終日曇って寒い。今週退院の希望は終に駄目。レントゲンのあとに手当をする。
大槻先生月曜には出勤される由。
午後
１２月１７日（日）
早暁大雨。１０時頃から晴れ夕曇。便秘五日目にて多少気分よろしからず。午後海野普吉君見舞に来る。初めて灌腸をして見る。下剤よりも成績がいいようだ。
１２月１８日（月）
終日快晴，風もなく温暖。午後大槻先生久振り出勤。診察後創口が完全にふさがるにはまだ２３週間かかるが，もう退院したければしてよいとのこと。よつて明後日午後退院ときめる。
渡部一高氏より諸方面え連絡して貰う。夕刻中央労働学園の村山重忠，逸見重雄両氏見舞がてら，「労働関係史の総合研究」のことにて相談に来られる。中公の島中氏見舞に来られる。
礼状 海野普吉氏。
１２月１９日（火）
快晴。文春の徳田君原稿の催促に来る。さてできることやら出来ないのやら，体の具合次第なり。夕方日評の美作君等来る。礼状－武田の佐竹彬氏。
１２月２０日（水）
快晴温暖。午後１時過ぎ退院。渡辺さん外研究所の人々来る。
帰宅して初めて入浴して寝る。
１２月２１日（木）
曇小雨。寒い。塚原先生来診。
来状－宮崎考治郎（札幌市外月寒）
１２月２２日（金）
快晴。９時２０分自動車に迎えられて東京駅へ。
渡部一高，堀木鎌三，佐藤正義，新国康彦，谷さん，渡辺さん見送ってくれる。佐藤氏見舞金三万円くれる（弘済会の小室清次氏同行）１０時２１分発車，１２時２０分頃湯河原駅。
山木屋という小さい旅館につく。狭い部屋なれども気持ちよし。風呂を浴びてから渡辺さんのくれた稲荷ずしにて昼飯をすます。
１２月２３日（土）
晴，暖。別に変わつたことなけれども冬子多少風邪気味，つかれている。
上手へ４５０分の散歩をする。
１２月２４日（日）
晴，風多少強し。午前中下の方へ散歩。
昼頃武田の佐竹彬氏見舞に来る。東京から電話あり。竹尾氏厳父病気の由。午後散髪をする。
１２月２５日（月）
昨日にまさる好天気，風もなく暖かなり。午前中不動の滝まで散歩する。午後尻の日光浴をして見る。
昼食の手打ちソバはうまかつた。
１２月２６日（火）
西風強く薄曇にて寒い。午前中駅まで散歩しバスで帰る。レントゲンのあと日光浴のせいにや少し痛む。
１２月２７日（水）
快晴，風強けれども室内は例の通り暖かい。
体力大分本復，少し原稿をかく。ただしあとから少し右肩がこる。まだ少し無理か。
１２月２８日（木）
風は収つたが朝の寒気は強い。朝飯前散歩に出て見ると，日ざしは暖かなれども往来に氷がはつているところがある。
餅つき。朝飯にからめ餅を食う。
少し風邪気味にて午後は引籠り休む。東京から手紙類を転送してくる。
１２月２９日（金）
朝雲り，正午頃より晴れて暖かになる。昨日から一寸風邪気味故，朝飯前の散歩をやめる。今日も少し変だが要するに鼻風の程度のことらしい。
法律時報の時評「社会保障案のゆくえ」を書く。気のせいか病気前よりも執筆の根気がでたようである。まだいくらせも書けそうだが，自重して六枚でやめる。
１２月３０日（土）
午前中雨，午後霧れて暖かなり。朝７時頃堀木さん，関西旅行からの帰途見舞に来る。朝食を共にし９時頃まで話す。広島の蠣を貰う。
午後新国君東京より見舞に来てくれる。今日はどういうものか尻の具合少しわるし。便通少しで始まる。
１９５１年１月１日（月）
宿屋のお蔭にて久振りに正式のお正月をした。曇にて風可成り強し。時々日光を見る。静かなれども寒いお正月なり。（年始状）林 芳郎
午後，することもなし。法律時報２月号の原稿書き終る。夜ラジオの落語をききながら早く寝る。
１月２日（火）
快晴，風なし。一日中静かな日。早起入浴。
東京より手紙の転送あり。小町谷操三よりの祝状の外，浜田喜一郎氏（
１１時竹尾夫妻と孫達三人，熱海からの帰りによる。大騒ぎをしてから４時頃帰京。
１月３日（水）
快晴，風なく暖なり。渡部一高，谷澄美子両氏来訪，一所に午後をとる。
４時ひきかえに重夫夫婦来る。２時に新宿発の電車に乗つた由，早いのに驚く。一昨夜レントゲンのあと具合よろしからず。今日も同じ調子，困つたものなり。
日本評論社の連中（美作太郎，岩田元彦，彦坂竹男，桑江常善，小林昭一）より年賀状を貰う。（京橋３の４）
１月４日（木）
朝曇たれどやがて晴れて温暖，風なし。レントゲンのあと引続き調子よろしからず。終日何となく不快なり。
午後重夫帰京，百合子となつ子は残る。小林義雄氏（
１月５日（金）
晴，終日温暖。朝皆で対岸の丘に登つて来たが，なつ子が歩くのには驚いた。
藤森鈞，野田智見両氏より賀状。
１月６日（土）
久振りに日の照らない寒い日。午頃飯を食っていると，日評の岩田元彦，桑江常善両君来訪。法律時報その他「法学入門」のことなど話して２時頃帰る。
年賀状 秦玄龍（
法律時報予定
２月号 事実認定の問題
３ 公務員法
４ 入門号
別に「法学入門」を書くことを頼まれたが，「法律講話」との区別をどうするかが問題なり。
１月７日（日）
曇，寒し。午後からみぞれ。山は雪の様子。レントゲンのあと甚だ具合わるくあぐらをかくに困る。夕方より小雪。
１月８日（月）
曇，午頃より時間を見るに至り３日目に暖かになる。
午後賀来，松崎（芳伸）外３名，労働省の連中見舞に来る。久振りに大に話をしたが，別に疲れない。レントゲンの調子も今日は比較的よろしい。年賀状
氷室吉平君
１月９日（火）
晴れて風もなく暖い小春日和。朝賀来君帰京，昨日の話を週刊労働の記事にしようというのだが，これには一寸閉口。
午後法律時報の原稿を書き上げる。川島武宜君から来状。
１月１０日（水）
雨。昨夜突然東京え帰ることにきめる。冬子等はバスで片瀬廻りにて，自分は１０時９分の電車にて帰京。研究所により中食後，中労委の自動車をかりて
帰宅。東京は小雪，夜には雪が少しつもつている。
１月１１日（木）
曇，余り寒くなし。午前中渡部，岩田両氏来訪。午後マッサージをする。肩がこつているためなり。年賀状えの返信をかく。
１月１２日（金）
曇，午後晴れて暖になる。終日年賀状をかく。略終る。
１月１３日（土）
曇，昨夕肩こりて晩くまでねむれず，塚原さんに行つて注射して貰う。
◎時評問題（読売記事）刑訴手続き促進のためアレーンメントを認めむとする案
憲法３８条により違憲との説（団藤）
合憲説（最高裁２４・６・２９判決）
（文芸春秋２月号） 中野好夫－学術会議選挙
中谷宇吉郎－教育制度
１月１４日（日）
快晴なれども北風冷たく寒し。終日二階で日にあたりながら寝たり，文春の原稿を書いたりする。昨日よく寝たので調子はよろしいが，肩のこりはまだ完全にはとれない。
昨夕からの続きで小場瀬卓三の「先駆者たち」を読む。文章はまずいが良い本だ。日本にもここに書かれている位の合理主義の時代があつていいと思う。
１月１５日（月）
成人の日，どういう意味の日か訳の分らぬ日なり。成年になる日ならば各人別々であるべきで，一日にまとめて祝うのは何のことか分らない。
１月１６日（火）
朝，小雪。少し積つて午後晴れる。
１月１７日（水）
快晴温暖。９時半自動車に迎えられて病院にゆき，患部の様子を診て貰う。大体順調なるが如きも，レントゲンのあとはこのまま Tinc oil で待つの外ないものの如し。
研究所によつて電車で帰る。夕方マッサージをする。ストーブが煙つて困る。
１月１８日（木）
快晴。林武雄君（横須賀市汐入町４の３）より見舞を貰う。早速礼状を出す。今日で大体文春の原稿を書き終る。
○時評の問題
子供の名が常用文字にないからといつて届出を受けつけないことから起つた問題
１月１９日（金）
快晴
１月２０日（土）
晴れ午後より曇，温かなり。肩こりて困る。午後よりマッサージをする。庵谷盤，岩屋明伯（都労委総務課長）見舞に来る。催眠剤 Dial をのみて寝る。
１月２８日（日）
快晴，温暖。風邪にて寝てしまう。レントゲンのあとも中々本復せず，困りものなり。小林巳智次君よりチーズを貰う。
１月２９日（月）
小木孝次（光生命）波多野義熊
１月３０日（火）
川島武宜，磯田進，戒能通孝
１月３１日（水）
快晴，春暖。風気味まだぬけず。朝鈴木利貞氏来訪。午後水連の西本，清川，藤田，小池四君見舞に来てくれたが，生憎とねていて会わなかつた。残念だつた。
２月３日（土）
労働法懇談会の件につき日経連の人々来訪。
２月４日（日）
快晴なれども北風強く寒し。午頃白石君来訪。
２月５日（月）
快晴寒し。夕方より風やわらぐ。渡部一高来訪。
２月１２日（月）
晴，暖なり，風なし。午後から研究所に行つて，光生命の組合の人に会う。
夕方５時頃から国鉄の organizer 教育の委員会に出る。８時半過ぎ帰宅。
２月１３日（火）
晴，北風あり。高橋悌介君（
昨日外出が長過ぎたためか尻が痛い。別に異状なき様子なれども･･････
法律時報４月号のために
法学とは何か――入門者のために――
法学とは何かを分る必要
何故法学を学ぶか
近代社会と法学 Weber（青山，102 以下）
役所のみならず至るところで法学士の必要ある理由
資本主義と法治主義
自由主義と法治主義
法典と適用（軍隊との違い）
法学的に物事を考え法学的に物事を処理し得る能力をもつ人間の必要
２ 現在大学で教えている法学
３ 理想の法学体系
Max Weber の学問論――政策と学問との峻別（青山
p. 223）
但し政策学（技術科学）の問題が残る
政策を動かすもの（理想，文化理念，哲学，政治目的
（科学―法則
２月１４日（水）
午後雪を冒して塚原さんにゆき注射して貰う。肩のこりがとれないためなり。夕方川田寿君家のことに来訪。
２月１５日（木）
夜の吹雪にて一尺の積雪，近来まれな大雪なり。
法律時報 時評題目
○大学が多過ぎる問題 ○男子の貞操 ○鳴門の爆発
２月１６日（金）
曇りて寒し。庭の雪少しもとけず。光生命の協約に関する意見書を書き終る。
○書いてみたい題目「老人の愛玩的価値」
夕方中司文夫君来訪，寒いので臥していたため冬子に会つて貰う（
２月１７日（土）
快晴，雪中々とけず。午前中渡部さん来訪。長靴を買つて塚原さんのところにゆき注射して貰う。
○病間妄語
田中長官へ――社会党へ――天皇制の問題――電源開発――競リン――公徳――社会保障（ギリシャ人の投書）
レッドパージと騒擾事件
２月１８日（日）
快晴。冬子鎌倉の岩井先生方に見舞にゆく。他の連中も皆出かけて終日静かなり。法律時報のために「法学とは何か」を書き初める。
午後一時散歩に出たが，帰つて見ると多少熱あり，風がまだ十分脱けないのだと思う。早くねる。
２月１９日（月）
快晴。熱は下がつたが終日静かにしている。同志社大学の住谷悦治氏（
浜田常二良君（
２月２０日（火）
快晴なれど北風寒し。近頃最も寒い日なり。
朝
手紙－吉田清（体協） 阿部実（田園調布２の３６の５） 今村信吉（吉祥寺２８４）
３月１日（木）
小雨，風まだ治らず，ねている。
３月２日（金）
終日曇。寒くはなけれど甚だ陰気なり。終日病床にあり。
午前中五十子巻三君来訪したけれども会わず，残念なり。
電産えの意見書草稿
１ 最高裁もしくは法務省筋の法律意見が略推知できる以上，組合としては成るべく
その線に沿つて行動すべきである，理論的にはその意見に批判を加え得る余地があるとしても，よくよくの場合でない限りかかる批判的意見に信頼して行動（特に争議行為）を起すのは危険だからできるだけ避けなければならない。
弁護士はとかく依頼人の利益になるように考え過ぎる（希望的観測に陥るおそれあり）
何となれば，かかる行動の結果，起訴される惧は非常に大きい，そして一旦起訴されると結局は無罪になるとしても，実際相当の犠牲者を出すことにもなり，組合としても，多額の費用を徒費することになるからである。
２ 最高裁の法律意見における基本的の考方は，Walk out は差支えないけれども，経営者の意見に反して積極的にその財産に管理的の行為をするのはいけないというのであるから，電産の場合でも思い切って Walk out をしてしまえばいいのである（ただし保安関係については研究の余地あり）
それを従来は色々の動機からやらずに，事務スト，選択的停電等をやつて来た訳だが，それが反つてあぶないのだと思う。
３ 戦術論的に考えても，公益事業の組合としては，一面争議における組合の要求主張を一般公衆に理解して貰い，そしてできるだけその同情を得るようにする必要があるけれども，同時にイザというときに一般公衆に迷惑をかけるだけの覚悟をしていなければならない（公衆を敵に廻すことは極力避けなければならないが，公衆を刺戟することを忘れてはならない）
５分間停電の如きは公衆を敵に廻す効果があるだけで，公衆は大して驚かないから駄目だ。
イザというときには Walk out してすべてを black out してしまう位の覚悟をする方が有効でもあり安全でもあるように思う。
選択的でなしに一整に Switch を切つて Walk out すれば反つて所有権侵害の問題は起らないのではないか（商品が生産されたが売らない場合と同様）
○三輪寿壮事務所（有楽町１の８日米ビル４階 銀座５５５番）
○相浦鼎五君息子の遺文集を送つてくれる（吉祥寺５０３）
３月４日（日）
晴，暖。離床－髪を刈る。午後労働法懇談会の発起人来訪。明日の発表会の打ち合せのためなり。
○明日の会長挨拶要旨
わが国の現状では労資の間に紛争が多いことはやむを得ない。したがつてそれに連関して法律問題が起りひいて訴訟事件が多く起ることも巳むを得ない。
しかし，紛争は成るべく迅速にかつ平和的の交渉で公正に片付くことが望ましい。紛争に連関して刑事々件が起ることが望ましくないのは勿論濫に民事々件が起ることも望ましくない。ところが最近の実情を見ていると――
その原因を考えて見ると
法が理解されていない
法の解釈が統一していない
法の不適正
関係当事者一同の相互理解と公正なる興論とによつて，紛争を予防しかつ解決することが望ましい。
殊に講和条約が成立した以後のことを考えると･･････
曇，暖。山田厚氏（
３月１４日（水）
光生命の小木氏外来る。細川潤一郎氏（
３月１５日（木）
晴，暖。労働法懇談会にゆく。
○腑に落ちない話――納得のゆかぬこと共
新聞広告――外資導入――北方選挙の題目――愛国心――歴史教育――天皇制――観光事業――湯河原
○私の信条（世界）
○スポーツ雑感
国家復興とスポーツ
Inferiority complex
日印関係――放送――新聞
競輪，競犬――役人の役得
スポーツ過剰 勝負にとらわれること
水泳の問題
Helsinki
兵役廃止と国民大会
３月１６日（金）
暖い春日和，竹尾さん等唐津より帰来。
３月１９日（月）
冬子と共に多少無理をして熱海に来る。ホテルは静で気持がよいが，今日は流石に少しつかれた。
３月２０日（火）
曇。午後一寸散歩に出て見たが，疲れているのに驚く。
３月２１日（水）
曇。渡部一高氏研究所のことで来る。昼食を共にする。冬子湯河原に行つて見たが，結局ここの方がよいとのこと。
３月２２日（木）
晴，夕方より寒い。評論社に原稿を渡す。冬子朝香宮様へお伴する。
３月２３日（金）
晴，多少寒いが気持よし。冬子，９時１７分の列車にて帰京。午後，町まで歩き Bus にて帰る。体の調子よろし。
夕方座間味氏労働法懇談会のことにて打合に来る。
朝香宮様より御見舞品を賜る。恐縮至極なり。
満月にて会場の夜景美し。遙かに大島三原山の噴火が見える。打上げ花火のようなり。
３月３１日（土）
労働法懇談会のため，９時１８分発にて帰京。
４時頃より共同通信社にゆき自動車に送られて帰る。
４月１日（日）
小田急にてホテルに帰る。冬子同行。夕方より雨。中島徹三君より葉書あり。
４月２日（月）
４月３日（火）
終日雨。
４月４日（水）
雨午後やむ。曇つて寒い。午前中雨をおかして散歩する。熊沢貞夫氏より電話，藤原さんとの面会は１６日（月）工業倶楽部にて時間は正午。筧干城夫氏（
冬子より葉書，井上匡四郎氏来訪したる由（
４月６日（金）
久振りに晴れ。朝渡部さん来る。研究所解散のことにつき打合わせする。
夕方[ 日本 ]評論社の岩田元彦君来訪（京橋３の４ 京橋６１９１－３）
時報題目
議員提出議案の問題 お土産案
課税よりも支出を問題とせよ
法定侮辱罪
労働法懇談会
国語審議会よ聴聞会を開け
予防法学と訴訟促進
滅私奉公
人口異言
４月９日（月）
冬子来る。子供等は来なかつた。
４月１０日（火）
冬子帰る。時報の原稿ももつていつて貰う。
４月１１日（水）
終日雨。
４月１２日（木）
晴れ。朝谷さん来る。時報の巻頭言，時評かき終る。
○私の信条
孤独性 一人旅がすき，人の世話になるのも人の世話をするのもきらい
好奇心が強いこと
贅沢でないこと
勝負事がきらいなこと
人に寛容なこと，干渉されるのがきらいなこと
芝居気がないこと，儀式がきらい，訓辞がきらい
神がいるとどうしても思えないこと
記憶力と読書 外国語
自分のしゃべつたことさえその場で批判する
４月１３日（金）
帰京。
４月１６日（月）
藤原銀次郎氏に工業
Club に招ばれて話をきく。
４時６分発の電車にて熱海に帰る。
４月２１日（土）
労働法懇談会の用事にて帰京。
４月２２日（日）
夕方熱海に帰る。
○現在わが国の労働法学にとつての課題（２１日講演要綱）
△判例を見ても学者の論文を見ても何となく理窟が足りない感じがするが自分としても即座にハッキリ答のできない問題の多いのに驚いている。
なぜであろうか？
一言にしていうと
（１）われわれのもつている労働法学の知識の外国から輸入した既製品であるにもかかわらず
（２）実際起る問題－事件－は日本の現状に即した独特なものである
そのため出来合の道具で無理な細工をすることになる
市民法と社会法の問題
△労働法及び労働法学位国によつて違うものは――
Capitalism のどこの国にも労働問題を惹起す
各国の対策も大体のところは互に似たところがある筈だが
（具体的の対策は国によつて違う，時代によつても違う）
(例) 労働協約 法制も学説も違う（ドイツとフランス）（イギリスとスウエーデン）
（アメリカ）
△われわれは日本の現実について自ら日本の労働法学を作らなければならない
４月２４日（火）
晴れて温暖なり。朝伊豆山方面へ散歩して帰るとやがて冬子と百合子来る。
４月２５日（水）
今日も快晴。研究所から秦，安藤両君，それから小林氏別々に来る。明日の理事会のはなしなり。
４月２６日（木）
東京へ日返りでゆく。研究所理事会，著作権協議会理事会。
４月２７日（金）
冬子等午後１時１５分帰京。
４月２８日（土）
朝，伊豆山神社の方面え山路を散歩す。「七変化」と「イキシア」
４月２９日（日）
昨日からあやしかつた天気，夜より雨となり，朝は濃霧が立ちこめて時々は尺を弁じなくなる。
法律時報の題目
災害と国家賠償 交通事故防止策 TVA
５月４日（金）
晴，暖。杉本伝（丹波市町豊田１，水鏡寮）（
５月９日（水）
昨日終日降つた雨もやんで，静かな美しい朝。
○病人の言うこと
△ころんでもただ起きない心がけ
子規の病床六尺（２１）
･･････悟りということは如何なる場合にも平気で生きて居る事であつた
△あきらめ（子規７５，中江兆民１年有半）
△Schlaflose Nachte
△読書の時間
５月１１日（金）
東京え引上げる。
５月１４日（土）
中央公論原稿腹案
○労働組合にとつての当面の問題
組織の問題
総評 国鉄機関手組合
自由の問題
対政府 メーデーの問題 強制調停（炭労の場合自力では返って十分の獲物は得られないのではないか？）対政党
組合内部の問題
５月２３日（水）
明日衆議院公聴会「裁判所侮辱制裁法案」原稿
△アメリカ風の民主政治と司法の重要性
（１）しかし民主政治における「権威」は――天皇制下のそれと異つて――民衆の尊敬納得の上に築かれねばならない
「天皇の名」における裁判を再生せしめてはならぬ
制裁で尊敬心を育うことはできない
Contempt of Court のイギリスにおける沿革（起源）は何であるにせよ
長老（もしくは長老法曹）が裁判官であることと関係している
（２）現在そうした事情の全くないわが国で司法に対する国民の尊敬心を面養するには直接それに役立つ方策をとるべきで，制裁をもつて望むべきではない
△確信犯人に刑事制裁をもつて臨むことの無意味
①騒ぎが大きくなることを彼等はむしろ喜ぶのではないか
労働委員会の経験（制裁を加えればあとからあとから反つて出て来る）
②共産党以外に問題があるのか
ないのにこういう法律を作ると反つて濫用の端を開くおそれあり
△裁判官自ら尊敬に値するものでなければならない
親殺事件の最高裁判決
「･･････民主々義の名の下に，その実，得手勝手なわがままを基底とした国辱的な曲
学阿世の論を展開するもので，読むに堪えない･･････」
「論者よ，休み休み御教示にあづかりたい･･････」
△裁判所法第７１条，第７３条（１年以下の懲役・禁錮，千円以下の罰金）
△侮辱された裁判所自ら罰する制裁はよろしくない（英米とは事情が違う）
裁判官に対する反感を益すばかりだ
川柳と Humor
○川柳しなの５月号
柳友に尽したわが妻
「あんたかて永いこと生きていなはれへんやろ，はよおいなはれや」
ある人からの弔状
「いつもお宅へうかがふのは，あなたにお目にかかるより，内室に会ひたくて行くのである，ナゼあなたの方がさきへ死ななかつたのですか？」
５月２４日（木）
日通研究所講習会
外国の労組と日本の労組
はしがき
知識は比較から生ずる
知識なき（無智なき）模倣の危険
労組の普遍性と相似性 資本主義国にはすべて労組を生ずる
（ソヴィエトの労組）
労組の国による特殊性
英米とドイツ フランス
国民性の問題
知識階級の指導との関係
社会主義との関係
わが国戦後の組合の特色
（１）企業別組織 union shop, check off, craft
union の問題
（２）組合の仕事
イギリス 親睦－共済相助 教育
（３）政治との関係
イギリス アメリカ
（４）組合役員
組合自治とleadership
６月２日（土）
労働法懇談会
６月４日（月）
谷口知平氏に「民法要説」の礼状を出す。小林栄三氏死去の由（麻布中ノ町１９）
６月８日（金）
朝小雨，大工来らず。便通多量にあり，久振りなり。岩田元彦君来る。
毎日情報にて随筆をたのみに来る。
６月９日（土）
小雨。研究所による。中村寅之助君来訪。大学に法社会学会理事会あり。初めて出て見る。
アメリカの児童労働問題に関する論文を引き受ける。
留守に阿部実君来訪。John Dairy を貰う。（
６月１０日（日）
曇。鮎沢さん来訪。阿部実，杉本伝両氏に礼状を出す。
６月１１日（月）
曇。秦玄龍氏（
６月１２日（火）
２３日休息をとるために熱海に来る。９時５９分の江の島行きで藤沢で乗りかえる。ホテルに着いたのは１２時４０分頃。
午後入浴。原稿を少し書き，夕食前散歩，小雨，雷鳴をきく。午夕食共食慾あり。ただし食後はやはり腹がつつぱる。便通少しづつあり。
ここにいる間にまず法律時報の原稿を書き，文芸春秋の４５枚ものを書く（題は「断腸後記」？）
毎日情報に「病人の言うこと」を書こうかと思う。
それについて参考になること
（１）阿部真之助がサンデー毎日に中江兆民と永井隆を比較しているのは一寸面白いが，兆民に気の毒なり。兆民の本領を学者より政治家よりジャーナリストと見ているのは賛成
（２）自分が臥ている間に得をしたことは，学者として若いときのことを思い起し，生涯を通じてしたこと，読んだこと，考えたことを綜合して考える機会を与えられたこと
（臥床中にノートをとること）
漱石 子規
（学者がねながらボンヤリ物を考えること，それをメモすることは湯川博士に限らないこと，もっともあとで読むと大体は下らないが，時々良いことを思いつくものだ）
６月１４日（木）
法律時報の原稿を送る。巻頭言は政治と道義的堕落とでもいうべき題目，時評は裁判所侮辱制裁法案。
午後理髪してから徳富蘇峯翁を訪ねる。元気なのに驚く。左耳やや遠けれども話もしつかりしている。国民史を書きつづけている由，来年は９０の由。
６月１５日（金）
雨を冒して帰京。藤沢のりかえにて都合よく２時間半ほどで帰着。研究室の棟上げができている。
６月１６日（土）
雨。朝塚原さんにゆき，胃を診て貰う。中屋重治君（
昼寝ながら読んだ「図書」に，鵜飼信成君が「自由への苦悶」というアメリカ印象を書いている－屋外集会に関する Vinson 裁判長の opinion が出ている。
６月２１日（木）
○毎日新聞社説 教職追放解除につき中央適格審査会の委員をそのまま審議会委員にしているのを不都合だと非難している。至極もつとものことなり。
６月２３日（土）
佐藤さん迎えに来てくれて光輪閣に富士製鉄，日通，苫小牧，本州製紙，十条５社の労務関係の方々と会談。
労働法懇談会（日本橋会館）に出席。
６月２５日（月）
朝，岩田英一氏来訪，公安条例の問題。午後三藤正君来訪，本を貸す。
明日の訴追委員会での演述の準備をする。
（演述要旨）
１ 私は新憲法上の民主政治が旨く行くについて，最も大事なことの一は，司法権が一般国民の信頼を得て権威を得るに至ることだと考えている
（天皇の名において裁判すると根本的に違う）
２ 信頼を得る最もよい方法はよい裁判をすること
そこで私は裁判所の判決書を読むことにつとめて来た，そして英米のそれと比べることをやつて見た
３ 新裁判所法の下での判決の特色は一人一人の裁判官が自分の意見を公表し得ること
これは一人一人の裁判官の責任を明かにすると共に一人一人の裁判官に対する国民の信頼を司法権の権威の基礎とする考
◎本条の特に重大すべき所以
①各裁判官に意見を述べさせる制度の理由を理解せず
裁判に必要な――したがつて許される範囲を超えて他の裁判官の名誉を毀損したこと
②斎藤判事の意見は他の裁判官の名誉を著しく毀損し，ひいて国民の信頼を害す，自己の品位をも著しく傷けている
③世間を驚かした――朝日，毎日
◎本件の場合
弾劾しても司法権の独立を害するのおそれなきのみならず反つて司法権の威信を増すと思う
裁判内容に対する干渉にはならない
◎訴追すべし（わが国には裁判官に限り特別の弾劾法あり，ＵＳＡと違う）
裁判所自ら懲戒の能力ありと考えられない
７月１日（日）
磯野誠一氏（
Lechner
v. New York, 1904
I regret sincerely that I am unable to agree with the judgment in this
case and that I think it my duty to express my dissent.
Bartels v. Iowa, 1922
･･････It is with hesitation & unwillingness
that I differ from my brethren with regard to a law like this･･････
Northern Securities Co. v. United State, 1703
I am unable to agree with the judgment of the majority of the Court, and
although I think it useless & un desirable as a rule, to express dissent, I
feel bound to do so in this case & to give my reasons for it
Great cases like hard cases make bad law.
松岡三郎氏（
７月５日（木）
雨。日通研究所に講演にゆく。胃の具合依然よろしからず。
７月６日（金）
雨やみ曇，午前読売の従業員組合のもの。日評の彦坂，岩田両君来訪。
胃多少改善のしるしあり。
○労組に関する随筆
①読売の場合 正力問題 組合は立ち入るべからず
②弘済会の場合 組合自ら職種別賃金制と職制としての経営参加制度を考えよ
③光生命の場合 労協の指導
④電産の場合 争議 正攻法的なるべし
⑤日通四国 争議権の問題
○自動車抵当法
強制保険制度を設くべし
○病人のいうこと 項目
病人のいうこと 子規―漱石―兆民
記憶ということ 連想
病人の精神状態 漱石―思い出す事から
子規
（漱石と子規とでは境遇が違う）
病人の精神状態
自分について言えば
①神経鋭敏――川柳のこと
②寛容 ○反省
③古いことを思い出す
④仕事がしたい 専門のことがきらいになる（子規，漱石）
子規―子規は弟子を教えながら弟子からよきものを摂取して自ら進歩した
読書 小泉信三
美濃部先生
労組と産報
７月１０日（火）
今井時郎君（
内山文則君（国鉄中央調停委員会調整課長）から頼んだ書類送つてくれる。菊井維大君移転通知（
（了）